小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

 アカネが黒板の前に進んだ。後ろに何か隠している。
「じゃーん」
 それは黒い額に入った幸太郎の写真だった。入学式のクラス写真を切り抜いたものだろう。白黒に加工されていた。
 幸太郎の遺影だった。
「今日は、残念ながら先日若くして亡くなられた、常盤森幸太郎さんの葬儀を行います」
 そう言って、写真を幸太郎の机の上に置いた。
「ナームアミダーナムアミダー」
 ケイタが坊主役のようだ。
「さあ、みなさん順番にお焼香をお願いいたします」
 アカネが声をかける。
「さあ、みんな幸太郎との最後の別れだ、並べよ」
 涙声を大げさに上げながらアサトが先頭に立つ。クラスのみなも薄笑いを浮かべながらその後ろについた。
 幸太郎はじっと黙って、下を向いたまま。
 チャイムが鳴った。
 誰もがこれで解放されると安心した。
 でも三人組はなぜかこの馬鹿騒ぎを止めようとはしなかった。なぜなのかは分からない。顔色ひとつ変えない幸太郎の素振りが彼らを逆上させたのかもしれない。
「大好きだったのに」
 そうアカネは幸太郎の机に泣き崩れる素振りまで演じた。
 

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