小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

 アサトの落ちた後、封鎖されていた資材置き場の窓枠に手をかけて、アカネは追いかけてきたクラスメイトたちを振り返った。アカネはそこに自分に期待するクラスメイトたちの顔を見た。
 何を期待しているのだろうか。たぶん、アカネが飛び降りることでKの呪いが終わることを期待していたのだろう。でもそれは彼らが真に望んでいたものではなかった。彼らが望んでいたのはこの世界からの自由であり、そのためにはKの力が必要だと思われていた。アカネがここで飛び降りてしまえば、Kの呪い、Kの力も消えてしまう。またしても窮屈で息苦しい学校の世界が待っていた。それでも、多くの生徒たちが元の世界に戻ることを望んでもいた。Kに対する恐怖と緊張にもはや耐えられなかった。アカネへの期待は同時に落胆でもあった。
 アカネは躊躇なく、窓からと飛んだ。窓枠を踏み台にして遠くへ飛んだ。
 目の前には青空。自由だ、アカネは声なく叫んだ。
 目を閉じた。どこまでも飛んでゆけそうだった。事実アカネは地面へ向かって飛翔していた。

6 K

 だが、その飛翔は永遠には続かなかった。
 あまりに勢いよくジャンプしたせいなのか、アカネは校舎の脇に植えられていたヒマラヤ杉の枝にぶつかった。クッションとなって落下速度が極端に落ちた。さらに、枝にぶつかり落ちる角度が変わったため、コンクリートの地面ではなく柔らかい花壇の土に上に落ちた。奇跡的にアカネは無傷だった。肩と脇をしたたかに打ちつけて一瞬意識を失ったが、朦朧と起き上がった。
 この奇跡の一部始終を見ていた生徒たちは、まず唖然と声も失っていた。それから割れんばかりの歓声が起きた。
「ほんものの救世主が現れた」誰かが叫んだ。
「ほんとうのKはアカネだ」
 生徒たちはアカネの名を叫び歓喜した。
 ようやく立ち上がったアカネはガッツポーズを取ると叫んだ。
「わたしは選ばれた。わたしは今聞いた。真の声を。聞け、真の声を」
 生徒たちは静まり返り、アカネの言葉を待った。
「わたしたちを自由にするために、わたしたちの罪や、汚れを背負って自由のために飛び降りなくてはならない。Kはそのためにわたしたちの前に再び現れた。三年間の死の眠りから覚めたK
そうKだ」
 再び生徒たちは歓喜の叫びを上げた。
「K!K!K!」
 

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