小説

『クレームまんだら』鶴祥一郎(『耳なし芳一』)

「メッセージ性のあるビーチボールなんて斬新じゃないですか!」
「だろ?……よし!じゃあやってみるか!」
「はい!」
 長い休憩がやっと終わった。私たちは仕事の優先順位などは度外視して、この、思わぬところから出た、思わぬ新デザインの商品化にとりかかった。
私たちは、まず共同でラフデザインを仕上げ、翌日、私がそれを持って専務を訪ねてGOサインをもらい、その足で工場へ折衝。加藤はその間に、このデザインのメインである『使用上の注意』案の収集をすることになった。
 幸い私のほうはどちらも簡単に片付いたが、加藤はその間、ずっと頭を抱えていたようだ。
 私がデザイン課に戻り、彼女のパソコン画面を覗き込むと、『使用上の注意』はまだ全体の三分の一しか埋まっていない。
「海、プール、川、あらゆるシチュエーションを想定してみたんですけど……ひとりじゃちょっと苦しいですねえ」
「だったらサンプル数を増やしてみようか」
 私はすぐにわが社の全社員へ、事の顛末および『使用上の注意』募集のメールを送った。
「そんな手があったんですね」
「うん。こんな時に協力するために、会社ってもんはあるんだろ?」
とは言っても、全社員で三十名そこそこのわが社。どれほどの反応があるのかは少々不安だったが、わずか数分のうちに、次々と『使用上の注意』案が返信されてきた。
 

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