「いい?今シーズンだって、ビーチボールの表面積の六分の一は『使用上の注意』だったんだ。で、来シーズンはさらに増える。この調子で増えていったらどうなる?スイカの縞柄を描くスペースなんか、なくなるぞ」
「いやいや、それはオーバーですって」
「でも可能性が無いとは言い切れないだろ?だってこれ見て。『空気の入れすぎは破損の原因になります』だよ。こんな注意、ありえないだろ?こんな常識が今や立派な『使用上の注意』なんだ。これからはどんな注意が追加されても不思議じゃない。そしてこのまま『使用上の注意』は増え続け、やがてビーチボールの全面を覆い……我々は仕事を失うのだ」
「そんなことはないと思いますけど……」
「いや、来るね。全面『使用上の注意』時代」
「でもウチはビーチボールだけじゃないし」
「ビーチボールですら、この有様なんだよ」
「うう……」
愚痴から生まれた何気ない不安に、会話は終わっても、休憩は一向に終わらない。私と加藤はビーチボールを眺めながら、沈黙とため息の淵にどっぷりと沈んでいった。
どれくらいの時間がたったろうか?加藤のため息の音が突然消えた。それに気づいた私が加藤を見ると、加藤も私を見ている。