そのまま長い時間が経った。すっかり過去の遺構となってしまったホールの中を伸びる一本の道の上で、私はかぐわしい花々に囲まれて仰向けに寝転がった。夜空には星が広がっている。見たことのある星座は一つもないけれど、それでも星は綺麗ね。
「疲れちゃったわ。こんなに歩いたの久しぶりなんだもの」
花の甘い香りが風にそよいで漂ってくる。私は疲労感と相まったその心地よさの中でゆっくりと眠りに落ちてしまった。
どれくらい眠ったのだろう? 目を覚ますと図書室の机に突っ伏している自分に気づく。ハッとして上体を起こすと閉室時刻を告げるクラシック音楽が静かに流れている。
「夢だったんだわ」
机の上に広げたノートやペンを急いでバッグに詰めながら呟いた。流れる音楽を後に、私は図書室の出口のドアに向かった。
「まるで『アリス』の話そのままみたい。妙な日ね。今日は早く寝ようかしら」
ドアを開け外に出る……そこは外じゃなかった。今まで、崩壊するのを夢に見ていたはずのホールだった。元通り、左右にどこまでも伸びている。最初に来た時のままだ。
「どうして……夢だったんでしょ、それでなくとも、壊れるのをこの目で見たのよ」
「アンナ・K」背後の図書室から低くて暗い声がする。振り返ると、白づくめの老人が暗い図書室のカウンターに座っているのがぼうっと浮かび上がっている。
「君は『アリス』に、不思議の国に囚われているんだ」