小説

『ふつうの国のアリス』汐見舜一(『不思議の国のアリス』)

「そこでアリス、僕に新しい名前を付けてくれないかい? うさぎって名前にはうんざりしてたんだ!」
「うーん……。じゃあ、ボーボー」
「なんだって?」
「毛がいっぱいだから、ボーボー。どう?」
「……いいね! 子どもに名乗ったら無条件で笑いをとれそうだ!」
 うさぎさんは喜んでくれているみたいだけど、提案した張本人である私が「ちょっと違うな……」と思ってしまいました。
「でも、やっぱりうさぎさんは『うさぎ』のままがいちばんかも」
「ええ!? ボーボーってイケてると思うけど!」
「うーん……うさぎさんは、どちらかというとフカフカだと思うし、でもフカフカだとどうしても羊とかお布団を連想しちゃうし……」
「そうかなー……」
 うさぎさんは納得いかないようですが、審議を打ち切るように帽子屋さんが、
「実は自分も、名前がコンプレックスなのです!」と割りこんできます。「自分のことを『いかれ帽子屋』なんて言う輩もいましてね、もう困っているのですよ。そこで、自分にも新しいクールな名前を付けていただけないでしょうか?」
「うーん……。ジョニー、なんてどう?」
「ほほう。そのこころは?」
「なんとなく、ジョニーっぽいから」
「映画か何かの影響でしょうか?」
「ごめんなさい。よくわからないの。でも、なんとなくジョニーがいい気がしたの」
「フィーリングというやつですね! 素晴らしいです! 自分は今日からジョニーです!」
 うーん……。
 

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