小説

『ふつうの国のアリス』汐見舜一(『不思議の国のアリス』)

「校庭?」
 そう、ここはどこかの学校の校庭なのです。我が家の車は、見知らぬ学校の校庭のど真ん中に駐車されているのです。
「どうしてこんなところに……」
 混乱しているところに、追い打ちをかけるような事態が。
「やぁ、そこの君!」
 背後から、はきはきとした少年のような声が聞こえてきたのです。声の主が少年なら何も問題はないのですが、声の主は少年ではなく、人間ですらありませんでした。
 うさぎです。
 白いうさぎが、ぴょんぴょんとこっちにはねてくるのです。
「ええ!?」
 もう「ええ!?」としか言いようがありません。周囲にはそのうさぎさん以外の気配はないので、うさぎさんが喋ったと考えるほかないのです。
 もちろん一言だけなら気のせいだと思うこともできますが、うさぎさんは、私が気のせいだと思いこむことを意図的に邪魔するように次々と言葉を発します。
「いやはや、お嬢さん、君は運がいい!」とうさぎさんは言います。
「どういう、意味?」私は恐る恐る言葉を返します。
「お嬢さんは『不思議の国』に迷いこんだのさ!」
「……よくわからないけど、それって運がいいの?」
「すごくいいよ! 雷に打たれるくらい幸運さ!」
それくらいの確立なんだよ、とうさぎさんは言いたいのでしょう。
「ところでうさぎさん、私の両親を知らない?」
「心配しなくても、君の両親は『ふつうの国』にいるよ!」
「ふつうの国?」
 

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