ぼくの会社は、いわゆるオフィス街にあります。ですので、ぼくは、たくさんの人と一緒に電車を降ります。電車のドアが開くと同時に、ぼくたちは、いきおいよく外へと押し出されます。そのときに体のバランスを取ることは、とても難しいです。
ぼくは、なんとか大丈夫ですが、ときどき転んでしまう人もいます。転んでしまった人は、すぐに立ち上がります。そして、なにごとも無かったかのように、みんなの列に戻ります。
周りの人に迷惑をかけないためか、恥ずかしさを隠すためか、真意はわかりません。ですが、ぼくはいつも、そんな人を、すごいな、とか、えらいな、と思います。転んでも、すぐに立ち上がること自体が、尊いことだと思うからです。
駅から会社までは、少し歩きます。たくさんの人が、だいたい同じような速度で歩いています。まるで、みんなで行進をしているようです。
見ようによっては、楽しいパレードにも見えます。ニコニコしている人が一人でもいたら、もっと楽しくなるのにな、と、いつも思います。
ぼくの会社は、新しくて立派なビルの、高層階にあります。会社の入り口にはゲートがあり、関係者以外は通れない仕組みです。社員全員に特別なカードが配られます。そのカードを決められた位置にかざすと、ゲートが開きます。
ゲートが、ガコンと機械的な音を立てて開くと、ぼくはなんだか、不思議な気持ちになります。かなしいような、さみしいような、あきらめるような、そんな気持ちです。
そのゲートを通ると、同じ部署の人に会ったりします。そんなとき、ぼくは、にっこりと笑って挨拶をします。