小説

『死んだレイラと魔法使い』本間久慧(『シンデレラ』)

 ぼくの会社は、とても忙しいです。ぼくも仕事がたくさんあるので、それをテキパキとこなしています。嘘みたいですが、ぼくは、テキパキと仕事をこなすことができるのです。

 ぼくに仕事の才能は無いと思われますが、何年も仕事をしていると、ちょっとは仕事がデキる、フリくらいなら出来るようになります。同僚の何人かは、そんなぼくに騙されてくれています。それもフリ、なのかもしれませんが。

 ぼくは、ニコニコしながら電話をかけたり、パソコンで資料を作ったりします。ときどき、近くにいる人と話したり、冗談を言ったりします。それも仕事、なのだそうです。これを怠ると、心を病んでしまう人が出てきてしまうそうです。

 実際、まるで伝染病のように、社内で心の病気にかかる人が増えてしまったことがあります。ある日、心の病気で会社を休む人が現れました。すると、実は自分も心の病気で、会社を休みたい、と言う人が増えました。

 冗談で言う人もいましたが、本当に休んでしまう人もいました。会社を休まない人の負担が増えて、その人が倒れたりしました。たくさんの人が、会社に来なくなりました。

 この時期は、ぼくも非常に忙しかったです。正直、しんどかったです。そんなブームを、ショック療法的に終わらせた出来事、というか、事件、がありました。

 ぼくの会社には、休憩室があります。午前中の会議を終えたぼくは、休憩室に入りました。例の休職ブームの最中で、ぼくは、とても疲れていました。休憩室のドアを力なく開けると、そこには誰もいませんでした。

 ぼくは、休憩室にあるコーヒーメーカーに、使い捨てのプラスチックのカップを置き、わかりやすくピカピカと光るボタンを押しました。いきおいよくコーヒーがカップに注がれ、湯気とともに、良い香りが部屋中に広がります。

 ぼくの会社では、なかなか良いコーヒーメーカーを使っています。社員の間でも、美味しいと評判です。
 

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