小説

『生贄は不要』広都悠里(『みにくいあひるの子』)

 あたしは今まで醜いアヒルの子を見つけて虐めてきたんだと思っていたけど、違うのか。醜いアヒルの子はあたしの方だったんだ。誰にも愛されない疎ましがられるつつかれる。見抜かれるのが怖くて先に仕掛けていたんだ。認めたくないからずっと目をそらして気がつかないふりをしていたら、本当にわからなくなってしまっていた。
「バチがあたったんだと思う」
 息を吸い込んで言うと町田翔は笑った。全然、笑うところじゃないのに。

 しばらくしてから中村亜里沙のデビュー作を読んだ。あんな日々の中でよくこんなラブコメディが描けたものだ。涙が落ちた。最近あたしは涙もろい。町田翔が卒業する日にも泣いてしまいそうな気がする。もしそうなったら絶対に誰にもばれないようにうまく泣くつもりだ。

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