「アツシくんの彼女、亜里砂ちゃん」智美ちゃんは、その子をそう言って紹介してくれた。アツシくんというのは、ソファで寝っ転がって、プリングルスを盛大に食べこぼしながら、ビールを飲んでいるタトゥーだらけでピアスをたくさんしている男の子だった。二人は、「どうも」と、あごを突き出すようにして、挨拶した。
「それで、こっちは私のダーリン、和樹くん」
智美ちゃんは、床にあぐらをかいて、不思議な香りのするタバコを吸っている、がたいのいい男の子を、そう言って紹介してくれた。アツシも和樹も大人っぽくて、迫力があって、いかにも女の子にもてそうだった。でも、二人はちょっとやばい感じがした。そういうのって、頭が悪くてもわかるものだ。
私達は昼間は家でごろごろして、夜は西麻布のクラブに遊びに出かけた。私はそういう所に行くのは初めてだったけれど、四人は慣れているようだった。店の中は暗くて、とんでもない音量で音楽がかかっていたので、私はすぐに疲れてしまった。智美ちゃんは酔っ払ったのか、目がとろんとして、和樹くんによっかかって、へらへらと笑っていた。
ある日、私はお店の雰囲気を楽しめなくて、ひとりで外に出た。私はお酒が飲めないから、クラブは苦手だった。自動販売機で缶コーヒーを買って、六本木通り沿いのガードレールに座って飲んでいると、店から出てきた人が話しかけてきた。
「ねえ、君、アツシ達と一緒にいた子でしょ?」とその人は言った。私が「はい」と答えると、その人は、
「俺、金沢っていうんだけど、あいつらやばいよ。クスリやってるから」と言った。
「クスリ?」
「そう、ドラッグ。まあ、ほとんどマリファナとか、その程度だけど、関わらない方がいいよ。君、可愛いし、まともそうだし。ま、困ったことがあったら、連絡してよ」
そう言って、名刺をくれた。
智美ちゃんの家に帰って、私がドラッグのことを聞くと、智美ちゃんは気まずそうに顔を伏せて、「そんなの、知らない」と言った。知っているのだ。私にはわかった。恋は選べないのだ。なんで好きになっちゃったのか、自分でもわからないけれど、どうしようもない。好きになるって怖いことなのだ。
このままここにはいられないなと思って、私は金沢に電話をした。住むところと仕事を探していると言うと金沢は、「じゃあ、俺の店で働きなよ、社員寮もあるしさ」と言ってくれた。