小説

『赤いブラジャー』五十嵐涼(『赤い靴』)

「ん…んん……」
 瞼を開けるとそこには顔が4つ。妻と娘、それから息子と息子の彼女が皆一様に心配そうな面持ちでオレを覗き込んでいた。
「あ!あなた!!」
「良かった!!お父さん生きていた!!」
 妻と娘がきゃっきゃとはしゃぎ出す。
「ビビらせんなよ、おやじ」
 息子はいつものポーカーフェイスをしれっと作ってみせた。
「おじさん、ごめんなさい…私、すっごい石頭で…」
 しかし、息子の彼女だけがまだ眉をひそめたままだった。
「いや、いや、全然大した事ないよ。こっちこそ、心配かけて悪かったね」
 よっこらとオレは体を起こす。すると、少し安心したのか彼女は眉間の力を緩めた。
「本当だよ!お父さんったら!梨々香さんすっごい心配して泣き出しちゃっていたんだからね」
 これが女子の団結力と言うやつか。すっかり娘は彼女の味方になっていた。
「まぁ、とにかく良かったじゃない。そんな事よりお義母さんの状態を病院に聞かなきゃ」
 妻が携帯をかばんから取り出し、電話をかけようとしたのでオレは首を振った。
「いや、かけなくて良い」
 オレのめずらしく真剣な表情に皆何事かと動きを止める。
「かけなくて良いんだ………………そんな事より、どうだ?せっかく揃ったんだから、皆でお袋に顔を見せてあげて、それから温泉でも行こうじゃないか」
 オレの意味深な言葉に皆最初は戸惑っていてが、妻はすぐに察しオレの話に乗ってきた。
「そうね、みんなで行きましょうよ。梨々香ちゃんも良いかしら?」
「あ、はい!もちろんです!」
「そうだよね!みんなで行こうよ!お兄ちゃんっておばあちゃんと会うの凄く久々じゃない?」
「だな、みんなで行こうぜ。まぁ、おやじはその真っ赤なブラジャーを外してからだけどな」
 息子に言われ、はたと自分の体に視線をやるとオレはまだ上半身裸にブラジャーを装備したままだった。
「間違いないな、ははは、ははははは」
 オレの笑いに誘われる様に、どっと皆も笑い出す。
 久しぶりに我が家いっぱいに笑い声が響き渡った。

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