小説

『赤いブラジャー』五十嵐涼(『赤い靴』)

「あ、は、はい」
「よろしい。もしあなたが自分を生き返らせてくれと願ったなら、その強欲さの罪で地獄に送る所でした。たった一つの願いが、お母様を思う気持ちだなんて、素晴らしい事です。自分を誉め称えてあげなさい」
「ええええ?!あぶねっっ!オレ、天国か地獄の究極の選択を迫られていたのか!!」
 綺麗なラッピングが施されたプレゼントを開けたら、連帯保証人にされた借用書でしたぐらいの衝撃だ。オレは何の考えもなしに言った自分の言葉の重みを痛感した。
「では、あなたの願いを叶えてあげましょう」
 ぱっと女性が扇子を広げると、金粉と数匹の揚羽蝶が飛び出してきた。蝶はオレのすぐ目の前を横切るとあっという間に遥か後方へと飛び立って行った。
「はぁ〜、す、すごいな」
 そういいながら女性の方を振り返ると、いつの間にか彼女の隣にお袋がちょこんと立っているではないか。
「うわぁぁぁぁあ!!お、お袋!?」
 よく見るとお袋まで白装束を着させられていた。
「ま、待て待て、オレはお袋の容態を見たいとは言ったが、天国に連れて来てくれとは言ってないぞ!」
「なんですか、まるで私があなたのお母様を殺したとでも言いたそうな顔をしていますが」
「い、いや…殺しただなんて…でも、お袋をここに連れてきてしまったという事は」
 オレは自分の願いの所為でお袋を死なせてしまったのではないだろうかと思うと胃がぎゅうっと痛んだ。
「違いますよ、あなたのお母様はあなたより少し前にここに来ていたのです」
「ええ!?」
 目玉をひんむきながらお袋を見ると、黙って俯いてしまった。
「あなたが真っ赤なブラジャーをしてご家族と対面している時、お母様は息を引き取られたのですよ」
「………」
 言葉もない。お袋が死んでしまっていたという事実と、自分が変態だという事実を突きつけられ、オレはその場に力なく膝を折った。
「お母様はあなたがここに来た事を知り、あなたに会うまでは願い事は言わないと言うのですよ。さ、息子さんに会えたのだからそろそろあなたの願いを」
女性にポンと肩を叩かれお袋は一つ小さく頷き、しゃがみ込んでいるオレの方にまっすぐ歩いてきた。
「お、お袋……」
 こんなにもしっかりとお袋の事を見たのはどれくらいぶりだろう。お袋はこんなに小さくて華奢だったのかと改めて思うと涙が溢れ出てきた。

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