『彼が持つ宇宙』
蒼
(『銀河鉄道』)
主人公である菅野という学生は、普段授業をまともに受けず、空き教室で時間を潰していた。ある日、非常勤講師である日向先生と、顔を合わせるようになる。彼は決して菅野を起こさなければ、叱ることをしない稀な存在だった。菅野は彼との会話を通して、この世界の一部、彼の見ている光景を垣間見する。
『包帯をほどく女』
中村市子
(『蜘蛛の糸』)
とある島で暮らす中学生の環奈は、先輩である蓮見に憧れていた。蓮見は将来を期待された陸上選手で、島の希望の星だった。蓮見が卒業する日、環奈は思い出に、負傷中の彼の腕に巻かれた包帯をもらおうとして失敗する。数年後、挫折し地獄の日々を送っていた蓮見に再会した環奈、ある行動に出る。
『白』
和織
(『駆落』)
二人のその計画を耳にしたとき、僕は笑いを堪えるのに必死で、吹き出して聞こえたらまずいから、二人が早くどこかへ行ってくれないかって思った。それくらい、その計画は空っぽだった。あるのはただの純粋無垢。結末を見届けてもいいかなと思うくらいに、たっぷりと馬鹿馬鹿しかった。
『あやかしシェアハウス』
世原久子
(『遠野物語 オクナイサマの田植』)
ここ数か月、葵の身の回りでは不可思議なことが続いていた。仕事が知らないうちに終わっていたり、一人暮らしの家に覚えのない落し物があったり。自身の病気を疑う葵だが、ある日思いもかけない存在に出会い、平穏で少し寂しい生活が一変していく。
『幻のお供』
池田啓真
(『桃太郎』)
桃から生まれた桃太郎。向かう先は鬼退治。きびだんごを使って、犬、猿、雉を次々と懐柔し……『桃太郎』の実話は少し違う。『鬼』と呼ばれるならず者の噂を聞き、退治すべく旅に出る桃太郎。その旅路で仲間を集めていく。『犬』こと剣八を仲間にした桃太郎が次に声をかけたのは、『亀』だった。
『本当の恋人』
淡島間
(『スカボロー・フェア』)
アパートの郵便受けに自分宛てではない手紙を見つけ、差出人の恋人になりすまして返事を書いたことから、知らない相手との文通が始まる。「早く村に帰ってきてね」との、愛情深いラブレターを読むうちに、私が彼の恋人なのでは、と錯覚するが、隠しきれなくなり、遂に正体を明かす決心をする。
『草の窓』
柿沼雅美
(『草の中』)
実家から少し離れた場所に借りたアパート。敷地を出てすぐのところに公園があり、子供たちの遊具のエリアを抜けたところまで歩くのが日課だった。そこで僕は毎日のように窓を見上げる。今日は、ユウちゃんと別れてから気力を失っている僕に、友人のKが会いに来てくれた。
『鑑定眼』
三坂輝
(『魔術』)
中小建築会社の社長である私は、社長同士の会合で、アートの魔術師という男のことを知る。抜群の鑑定眼で、これから価値が上がる作品を見抜けるらしい。私は伝手をたよって彼に会い、その鑑定眼を教えてほしいと請う。彼は言う。「欲を出してはいけないのです。あなたにそれが守れますか?」
『メタモルフォーゼ』
N(えぬ)
(『変身』)
両親と息子と娘の四人の家族があった。息子がある日、虫に変わってしまう。その虫を巡る家族の姿。