実家の街から少し離れたアパートの一室を借りた。
ここでこの冬を送ることにした。アパートを出てすぐに、森を模して整備された公園の入り口がある。毎日のように公園の中を歩いていると、大人数での遠出や旅行がしづらくなったためか、子供とその保護者でいつも賑やかだった。おしゃれをしたい年頃の、幼稚園生くらいの子は、フリルが三重になったスカートで、汚れるのも気にせず滑り台を降りていた。
「よぉ」
隣に立った男が僕の小さなボディバッグをトンと叩く。
「ほんとに来てくれたのか」
「そりゃあんな電話してきたら来るしかないだろ」
Kは海を超えて遠くからぶらりと来た。僕が恋人と別れてそのことを連絡したから、気を紛らすために来てくれたのだ。
「ユウちゃんはいい子だったんだね」
ユウ、という名前が耳をひっかく。
「うん。おだやかで、愛情が深かった」
「俺は会ったことがないけれど、お前がそんなに落ち込むくらいだから本当に好きだったんだな、と思うよ」
「うん。僕も自分でびっくりしてるよ。誰かに紹介したり会わせるのももったいないくらい、大事にしてた。けれどそれがきっと負担だったんだろうな、って、今なら分かるんだけれど」
「もう元には戻らないのか? 年も明けたし、ゆっくり話したりとかできないのか?」
そう言ってくれるKの顔は不憫だと言いたげだった。
「それは無理だな。もう別の人の腕の中さ」
「え、そ、そうだったのか。それは…気の毒だな…」
Kが視線を落とし、スニーカーのつま先で落ち葉を粉々にする。
「ちょっと連れていきたいところがあるんだ、公園の南のほうの入り口に」
「もちろん」
Kは余計なことを言わず、僕の少し後ろをついてきてくれる。子供たちのはしゃぎ声が遠くなり、しゃりしゃりと、時折葉を踏む音が聞こえる。
アパートからほぼ反対側にも公園の入り口がある。こちらは少し立派なマンションや一軒家が並ぶ。遊具が無いため子供が少なく、とても静かだ。
「ここはいいところだね」
「僕の気に入っているところなんだ。人が少ないから自由になれるんだ」
ボディバッグから畳んだレジャーシートを取り出す。
「寒くて悪いけれど、ちょっと付き合ってほしい」
そう言う僕に、Kはまたもちろん、とだけ返した。
「雀がたくさんいるんだよ」
「そうだな」