Kは、雑草や周囲の木々を眺めていた。
「松があるじゃないか、珍しいけどなんだか少し寂しいな」
「風が渡ると松はとても寂しいよ、なんでだろう」
「独りで立っているという感じを強く受けるからじゃないか」
「なるほど、樹は一本と密集しているのだと印象がだいぶ違うね」
寒いな、と言ってKはタバコに火をつけた。ここは喫煙してよかったのだろうか、と周囲を見回すもそれらしき張り紙もないし、Kの好きなようにさせてあげたい。
「しかし樹になりたいなぁ」
そう言いながらあぐらをかくと、シートが鳴り、敏感な鳥が何度か叫ぶ。
「樹に? どうして?」
Kは煙をすぅっと深呼吸のように吐き出す。
「だって、さして暑さや寒さを感じることなくここにずっと立っていられるだろう?」
「ここに立ちたいのか?」
何を言っているんだ、と半笑いでKが聞く。
「そうだな」
「そんなのは夢を見ればいいよ」
「そうだろうか」
「そうさ」
「そうしたら僕は夢の中でユウちゃんをいっぱい愛するね。この樹のようにずっしりどっしり堂々とさ」
「夢の中でか?」
「うん」
「そういうことがいつまでも続けば一番いいね。夢であっても」
「うん」
自転車の侵入を防ぐ腰の高さほどのポールの向こうに、ユウちゃんのマンションの窓が見える。窓のカーテンが明るく開いていて、そこから吊られた照明までよく見えた。その中ではユウちゃんのベッドが窓際にあって、昼寝でもしているはずだった。
風が柔らかく芝生の上を渡ってきた。草は葉を擦って胸の前でさらさらと音をたてた。コートが肩から重く垂れさがってきたような気がした。
僕が何も言わないと、Kも何も言わない。僕は、マンションの右端のユウちゃんの部屋の窓を眺めていた。
しばらくした時、急にその窓の中でユウちゃんが起き上がったように見えた。
「K、あのマンションの2階の端の窓が見えるだろう?」
「え、ああ、うん」
「今、人が起き上がっただろう?」
「あ、ああ、うん」
「あそこにユウちゃんが寝ていたんだよ」
Kは長らく黙って、草の中からユウちゃんの部屋を覗いていた。草の緑の匂いが微風に揺られてさまよって来た。時々鳥の声が裂けるように響いた。遠くの場所から子供の声が聞こえてきた。公園はだんだんと夜になっていった。月が明るくくっきりとし始めた。脚を伸ばすと草がひどく冷たかった。露が葉の上に降り始めた。
「やばい」