『時は立花のように』
佐倉華月
(『三四郎』)
学生の頃、広田は十二、三の少女に会った。ただ目が合っただけだったが、それ以来頭に残り続けている。三十歳になった頃、亡くなった友人の妹を預かることになった。美禰子という名の彼女は、結婚するならいきたいところにいきたいと言う。その大人びた表情に、広田は昔会った少女の面影を見る。
『きっと、きらきら光ってる』
志水菜々瑛
(『ラプンツェル』)
年長さんで、ヘアードネーションを志した葵。でも、それは髪を伸ばすための表向きの理由で本当の理由は誰にも言えずにいた。そんな葵は小学五年生になり、職業体験先の病院に訪問、カツラをつけている晶子さんに出会う。
『満開の花が咲き誇る日を』
ウダ・タマキ
(『オオカミ少年』)
僕の人生は不幸ばかりだ。二年連続の受験失敗に母親の病気。この先もずっとこんな人生が続いていくのではないか、なんて考えている時に出会った一人のおじいさん。おじいさんの話を聞くことで、僕の気持ちは少しずつ前向きになっていくのだった。
『きめにくいアヒルの子』
室市雅則
(『みにくいアヒルの子』)
高校の演劇祭で『みにくいアヒルの子』を上演することになった花子のクラス。クラス会で、その配役を決めようとするが…
『スワンボート』
吉岡幸一
(『ハムレット』)
父が亡くなり、母が父の弟である叔父と再婚したことで、家で僕の居場所はなくなりました。ある寒い夜、僕は家出をして街を歩き回ります。たどり着いたのは街中にある大きな公園でした。公園の池で亡くなった父の幽霊に会い、一緒にスワンボートに乗ります。父は叔父と母を奪い合った思い出を語ります。
『百年の冬の庭』
川瀬えいみ
(『わがままな巨人』)
幸福な巨人一家の冬を知らない暖かな春の庭は、巨人が愛する妻子を失ったことで、冬をしか知らない冷たく寂しい庭になってしまった。百年後、長い冬を生き終えた巨人を、妻子が迎えにやってくる。悲しむ巨人の心を思い遣って、花を咲かせず息を潜めていた巨人の庭は、再び生きることを始めるのだった。
『熱』
和織
(『寒さ』)
「私ね、ここで自分の人生において一番の景色を見たことがあるんです」寒い日、駅のプラットホームで真っ直ぐに死を見つめている私に、その男はそう言った。
『秋の修羅』
六
(『赤ずきん』)
三世帯住宅で同居する曽祖母キミが認知症に罹り、多忙な両親の代わりに介護を引き受けた大学一年生の佳世は、感染症への警戒が叫ばれる最中、親族も知らない道代という女性としてキミから認識され酷い暴言や暴力を受け続ける。その背景にはキミが幼少期に体験したある事件にまつわる記憶があった。
『忘れない人』
渡辺リン
(『忘れえぬ人々』)
駆け出しの小説家古賀はブログを立ち上げようとしていた。テーマはある日ある場所で出会った「忘れない人」。彼は一人で入ったオシャレなカフェで駆け出しの画家鍋島と意気投合し、メモの段階の原稿を見せる。そして一週間後にブログをアップ。そこに鮮明に描かれた彼にとって忘れない人とは誰だったのか?