小説

『百年の冬の庭』川瀬えいみ(『わがままな巨人』)

 そのお屋敷の庭は、冬を知らない庭でした。
 すみれ、ひなぎく、ガーベラ、ジャスミン、百合にアネモネ。広い庭には明るく温かい色の花が次から次に咲き、花のない日は一日とてありません。
 林檎にオレンジ、葡萄に桃。庭には、甘い実を実らせる果樹もたくさん植えてありました。たわわに実ったたくさんの果実は、庭中に甘い匂いを漂わせています。もちろん、一年中。
 それらの木々の下では、やはり一日たりとも枯れることなく生き生きと萌えている下草が、やわらかい緑色の絨毯のように大地を覆っているのでした。
 そんなふうに美しく豊かな庭には、動物たちも自然に集まってくるもの。
 小鳥たちは、この庭の美しさと豊かさを褒め称える歌を、毎日競うように歌い続けていました。リスやウサギたちは、広い庭をところ狭しと元気に走りまわることで、自分たちがどんなにこの庭が大好きなのかを、全身で歌っているようでした。
 冬を知らない広い庭とお屋敷は、高くて頑丈な石の塀で囲まれていました。塀の外の世界に寒い冬がやってきても、雪や木枯らしは門の扉を開けてもらうことができません。ですから、凍える冬は決して庭の中に入ることができないのでした。

 冬を知らず、いつも春のように暖かく美しく豊かな庭。
 その庭が美しいのは、庭を抱く お屋敷に暮らしている人たちが幸せな人たちだったからです。
 冬を知らない庭を抱いているお屋敷に住んでいるのは、巨人の一家でした。若くて働き者の巨人のお父さんと優しく美しい巨人のお母さん。そして、お父さんとお母さんに比べれば、とても小さな女の子。
 女の子は、巨人のお母さんが子供だった頃の姿にそっくりで、長い髪にいつも綺麗な花飾りをつけていました。何もかもがお母さんにそっくりなのに、瞳の色だけはお父さんと同じ。
 そして、もしかしたら、お部屋の中でお行儀よく椅子に座っているよりも、庭を駆けまわっていることの方が好きなのも、巨人のお父さんに似ていたかもしれません。
 とても元気で、ちょっとおてんばな女の子の名前はアンジュといいました。
 その庭は、小さくて元気な女の子が駆けまわっているから――幸せな子供が駆けまわっているから、冬を知らない幸福な庭だったのです。

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