『どこにもいかずにここにいる』
森な子
(『みにくいアヒルの子』)
カナメちゃんはいつも心ここにあらず、といった感じの、ぽやんとした女の子で、いわゆる“不登校”っていうやつだ。あたしは、週に何度かカナメちゃんの家に通って、プリントを届けたり、話を聞いたりしている。そんなある日、カナメちゃんが学校に来なくなった本当の理由を知ることになる。
『神待ち少女は演劇の夢を見るか』
甚平
(『笠地蔵』)
家出少女が、SNSで泊めてくれる相手を探す『神待ち』。仕事に追われる深沢(ふかざわ)貞夫(さだお)は、駅で小野塚愛実というギャル風の少女に神待ちの相手だと間違われ、家に上がり込まれてしまう。年末の忙しい中、奇妙な同居生活が始まるが……。
『鬼のグレーテル』
みきゃっこ
(『ヘンゼルとグレーテル』)
節分の夜に母が急逝した。慌ただしく葬儀を終えていくなかでもその現実感は希薄だったが、火葬の終わった日の夜、兄が話し出した思い出はいつかの節分の話だった。豆撒きをしながら風呂に落ちた母と自分と、そのとき好きだったヘンゼルとグレーテルを思い出したわたしはようやく涙のひとつが落ちる。
『何千回もある』
菊武加庫
(『織女と牽牛』)
またこの日が来た。もう二千年も前から私はこうしている。老いることも死ぬこともなく年に一度永遠に再会し続けるのだ。変わらないことに疲弊し続けているのは夫も同じだ。七夕の日、理不尽さに怒りが湧きあがった。
『萌し』
夏迫杏
(『春は馬車に乗って』)
春高屋の花は命の花だ。まだ新薬が見つかっていない流行り病を治すことができる。花が癒さないのは、花を咲かせるために命を燃やした者だけ。流行り病と、ひとびとのために体躯に花を咲かせてきた姉の生の終焉が迫っていることを感じながら、春高はきょうも花の配達にむかう。
『子化身』
霜月透子
(『ピノッキオの冒険』)
近所の子供たちに慕われる一人暮らしのおばちゃんがいた。おばちゃんはこけしに絵付けをする内職をしているため、作業部屋の中はこけしだらけだ。それでも子供たちを快く家に上げてくれる。私と弟のミツルもよく遊びに行った。そんなある日、ミツルの様子が変わってきたことに私は気がついた。
『誰』
斉藤高谷
(『白雪姫』)
森の奥で深い眠りから目覚めた〈あたし〉。王子のキスによるものかと思いきや、周りにいるのは七人のしもべだけ。一体誰がキスをしたのか。最悪の事態を考える〈あたし〉に、しもべたちが真相を語り出す。
『スーサイドもしくはユアサイド』
もりまりこ
(『杜子春』)
休み時間のチャイムが鳴り始めると、転校生の十四春は廊下を急ぐ。休み時間って地獄だから。誰にもみつかりませんようにと願いながら。目的地は杜子先生が教えてくれた、裏学園伝説。保健室登校する生徒だけが知っているその伝説の銅像は、学園のぎり東にあった。冴えない銅像の隣には古い焼却炉が放置されていて。扉には南京錠が掛けられていた。
『泉の選択』
香久山ゆみ
(『金の斧』)
銀ですか? 白ですか? あなたはどれを選びますか――。奥歯の治療に当たり、選択を突き付けられる。もちろん銀歯よりも白い歯がいいが、保険適用外の高額診療なのだ。こんな難問を与えるとはなんて意地悪なのだろう。悩める乙女は、現在を懊悩し、過去を悔い、未来を夢見る。