小説

『イマージナリー・エネミー』平大典(『撰集抄』(和歌山県))

 兄さんは、わたしにとって最初の友人であり、最初の敵もあったといえよう。
 さて、イマージナリー・エネミー。
 ツインが住んでいるのは、バーチャル上に設けられた【ワイトシティ】という電脳都市だった。
 真四角な土地をしていて、平べったく、真っ白なオブジェクトが配置されている。ややバーティカルな意匠をしたビルや道路。そこに何百万人に達する電子的な住民たちが生活している。わたしのツインも中心街に近いマンションの一室に住んでいる。
 そもそもテネウス社が始めたサービスの目的は、わたしたちユーザーに敵を作ることではない。
 マイ・ダイブというサービスは、ある時点でのユーザーに関する精緻な情報、つまり遺伝子情報などの生体的な情報から社会的なふるまいまでを入力し、ワイトシティ上に電子的に分身を再現するものだった。そこで、ユーザーの分身は自律的な生活を送る。ユーザーは自分の電子分身の生活を観察したり交流したりするというサービスだ。
 ユーザーはただ自分のコピーを観察する、だけでなく、業務を手伝ってもらう、楽器バンドを組んでクリエイティブな活動をする、現実世界のパートナーを探してもらう。
 わたしのように競争相手にするなど、多様で幅がある利用が可能だ。
 ツインに対するライバル心は、徐々にメラメラと湧き出たものだった。利用を開始して数週間後くらいから、わたしたちは毎週末に状況を報告し合うようになった。大学にダラダラぐだぐだと通ってしまっているわたしよりも、ツインはアクティブで、話を聞くたびに焦りが芽生えてきた。
 負けんようにしんといかん。
 わたしは学業やプライベートの活動を充実するように意識するようになった。まあ、あっちは戦っているつもりはないだろうが。

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