小説

『キズをおって』森本航(『飯野山と青ノ山の喧嘩』(香川県))

 先生が説明するのを聞いている時、私の頭の中では色々な考えと感情がぐるぐると回って、上下の間隔すら見失いそうになっていた。
「でな、泉は誰も悪くないって言いよんやけど、別の事言う子らもおってな。葵に話聞かないかんってなったわけや」
 ――誰も悪くない?
「その子らの言いよるのが多分正しいです。私が突き飛ばしました」
 そのつもりはなかった、というのは、言い訳じみていて言えなかった。
「何があったんや」
「分かりません」と答えた。正直に。
 先生はしばし唸った後、
「謝りたい気持ちはあるか? 泉は、そんなんじゃないって言いよったけど、葵としてはどうなんや?」
 先生は、双方が納得しない謝罪に意味はないと考える人だった。
「分かりません」私は繰り返す。
 先生は難しい顔をして、
「しばらく君らの様子は見させてもらうけど、言いたいことが出来たら言うてくれ」

 土日を挟んで登校してきた泉は、右のこめかみ辺りにガーゼを貼り付けていた。
 私は目をそらす。目は合わなかった。
 クラスメイトたちが彼女へ心配の声をかける。
 泉は明るく応える。
 私は机に突っ伏し、外界をシャットアウトする。

 泉の友達たちから何らかのアクション、あるいは攻撃があると思っていたが、何もなかった。あって当然とすら思っていたのに。泉が止めたのか、何か思うところがあったのか。

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