小説

『ワンルーム・ジャイアント』そるとばたあ(『ダイダラボッチ伝説』(茨城))

 でも、今、ぼくの目の前にいるのは本物の小人だ。
 ワクワクがとまらなかった。そして、ある奇妙な感情がぼくの中で芽生えていた。
 この小人の男女をずっと見守っていたいと。
 ぼくは、この小人の男女をチグとハグと呼ぶことにし、二人が住みたくなるワンルームを作るのだと心に決めた。
まずは住居だ。
 インターネットで色々と検索してみると、色んなタイプのドールハウスがあった。その中から、二人用のドールハウスを注文した。置く場所は、部屋の中でも死角となるベッドの下にした。ぼくがベッドにいないときは、ドールハウスを使用してくれたが、夜になって、ベッドに寝転がるとその振動で二人はドールハウスから逃げだした。翌朝、ぼくはベッドを持ち上げて、自分の生活空間をロフトに移すことにした。これで怯えることもないし、家の日当たりもよくなるはずだと。
 次に食事の問題。
 あからさまに食パンを置いておくと警戒されるので、不自然ではない場所に食パンを置き、その間、ぼくはそこから距離のある場所にいた。しばらくして戻ってみると食パンの一部はちぎられていた。一度、ツナ缶を置いたときは、そこら中が油まみれになったので、食べ物は色々吟味する必要がある。
 ぼくの最近の朝はこうだ。ロフトで目を覚ますと、軽くストレッチをしてゆっくりと梯子をおりて洗面所へ。朝食のトーストを食べると、チグとハグ用のトーストをカットして、ジャムを塗ってダイニングに置く。洗濯機をまわして、またロフトに戻ると、双眼鏡をつかって、チグとハグの様子を観察した。ドラム式洗濯機の窓を宇宙船に見立てていたぼくは、今では宇宙全体を見渡す存在になった気分だった。

1 2 3 4 5 6 7