小説

『ワンルーム・ジャイアント』そるとばたあ(『ダイダラボッチ伝説』(茨城))

 室内を隈なく探していると、玄関のドアを叩く音がする。
 なんとなく察しがついた。ぼくはヘッドライトを外して、ドアを開けた。
「朝からおれの部屋に空き巣にでも入る練習かい?」
 皮肉たっぷりの羽賀さんの冗談に、思わず顔が引きつる。
「違います! でたんですよ、ねずみが!」
「あのな、こんな坂の上にねずみはでないの。ここまで来るの、ねずみだって疲れるだろ?」
「でも……」
「とにかく、うるさい」 
「すみません……」
 羽賀さんが部屋へと引き返すと、自然とため息がでた。
 さぁ、気を取り直して捜索を再開だ。
 あとは、クローゼットと机とほぼ物置となっているロフトだけだな。と思っていると、微かに物音がきこえたような気がした。机のほうだ。警戒心の強いねずみに見つからないように、キッチンを片づけるふりをして、横目で机のほうをちらちらと見る。机の上にあるのは、数冊の本の山と壁際にあるペン立てだけ。そのペン立ての裏に黒い影が見えたとき、思わず声がでそうになった。そこにいたのは、五センチほどの高さの人の姿だった。それも男女の。
 ぼくは今日二度目の洗顔をしてから、またペン立ての裏を見た。やっぱりそこには何もない。ついに、現実と空想の境目がわからなくなったのかと思った。とりあえず、洗濯でもしよう。そう思いついたところで、床にパン屑が落ちているのを発見した。点々と落ちているパン屑をたどり、ドラム式洗濯機の裏を上からそっと覗き込むと、やっぱりそこには小人の男女がいた。外をうかがいながら、パンを分け合って食べている。
 ぼくは、ゆっくりとドラム式洗濯機の前に座り込んだ。
「本物の小人じゃん」
 声がもれないように、ぼくは押しよせる興奮を押し殺す。
 ぼくは幼い頃から空想することが好きだった。ドラゴンに天使と悪魔に宇宙人、もちろん巨人から小人まで。今でも空想することは大好きなのに、大学に通っていると、自分自身がつまらない大人になってしまったなと感じる瞬間も多かった。

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