「君は料理が好きなのかい。その、正直とてもそうは見えないのだけど」
「料理っつーか、食うのが好きなんだ。どうせ食うなら、美味いもんが良いだろ」
「ああ、なるほど。それは羨ましい。実は私はね、食が細くてね。病院に通っているのも、そのせいなんだ」
「…ふぅん」
すっ、と彼が立ち上がり、そして青年は僕を見た。
その、まるで猫の目のような、青い瞳を細めて。
「じゃあ、食いに来るか?」
置いてあった荷物を抱えた青年は私に、そう提案したのだった。
「ず、随分と入り組んだ山の中なのだね…」
「山の中の奥のもっと奥だって言っただろ」
とっくに道を外れ、ぼうぼうと伸びた草を踏み分け進んで行く。目の前の青年は歩き慣れているのであろう。大きな荷物を抱えながらもすいすいと進んで行くので、私も必死に青年を追い掛けた。もうどれだけの時間歩き続けているのだろうか。私の身体はすっかり大量の汗と泥に塗れている。
「ひぃ、ひぃ…君は、こんな道を通って街まで来ているのかい」
「まあね。それにしても、これだけで音を上げるなんて、アンタ相当鈍ってんな」
「街育ちなんだ、勘弁してくれよ」