小説

『スサノウの夏』添谷泰一(『古事記の八俣の大蛇』(島根県))

宮田先生のテンションはマックスに達し、アクションを交え、「スサノウは老爺と老婆に芳醇な酒を造るようにと言って、八つの門を備えた垣根を作り、酒をなみなみと入れた桶をそこに置いたんだ。さあ! そこに現れたのは、噂に違わぬ、強大な大蛇。大蛇は八つの桶に頭を入れて、酒を飲み干し、そして酒に酔って寝てしまった。さて、ここでスサノウ、剣を取って、大蛇の頭をザク、ザクと切り落とした。斐伊川が大蛇の血で真っ赤に染まったのは言うまでもない! そして、尻尾を切った時、硬いものにあたった。それが後に伝わる『三種の神器』の一つ。草薙の剣だ。まいったかぁ」生徒たち、「はぁ」「まいりました」と疲労感漂うため息。宮田先生、憑き物が落ちたように言った。「さて、郷土芸能部では部員を募集している」。チャイムが鳴る。生徒たち「そこか!」「長い前振り」「帰ろ帰ろ」宮田先生、教室を出て行こうとする生徒に向かって、「おい、待て! お前らよく聞け! 高校文化祭で、九月に神楽を奉納する。この時上演するのが今語った、『ヤマタノオロチ』だ。神楽を舞うことは、とっても名誉なことでもあるし、社会に出ても役に立つ。神と合体することで、ご利益がある」教室に残ったのは、能人と雪乃。能人は再びよだれを垂らして寝ていた。雪乃が言った。「先生、郷土芸能部の部長として言わせてもらいますけど、九月の公演は無理なんじゃないですか?」「どうして?」「部員が足りません。演奏では大太鼓、小太鼓、笛、銅拍手。キャストは老爺、老婆、クシナダヒメ、スサノウ、大蛇が最低でも四人。全部で十二名。現在、私を含めて、六名。あと六人どうするんですか?」「だからこうして募集してるんだろう」「集まったとして、最低でも一カ月練習しなくては舞台には立てません」「夏休み、みっちり練習すれば出来る」。雪乃は、不在の席を見つめて「せめて、クシナダヒメ役の姫香さんがいてくれたら」。宮田先生は何か言いたげだが、言葉を飲み込む。その代わりにという体で、「能人って部活やってなかったよな。能人とは幼馴染なんだろ」「ていうか、腐れ縁。っていうか、何に対しても無関心で付き合いきれない。生きてるんだか、死んでいるんだか」宮田先生、能人を見て「死んでるね」。これが、夏休みを明日にした、島根県の高校二年の教室での出来事であった。因みに能人が起きたのはこの会話の二時間後。能人が起きる。「あれ?」

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