小説

『大晦日の休日』田中竜也(『笠地蔵』)

「じゃぁ何でおじさんはここにいるの?」
「俺は金儲けにならないことには興味がない。大晦日だの正月だのやったって、一文の得にもならん。今も町で金儲けの話をしてきたところだ」
「じゃぁおじさんは、大晦日、休んでるの?」
「仕事が終わったから、そんなところだ。大晦日や正月は仕事ができん。金儲けができないときは怠けるに限る」
「じゃぁ僕も怠けていい?」
「お前は家の手伝いがあるだろう。そもそもお前どこの子だ? 見かけない顔だな」
「僕も怠けてみたい」
「変なやつだな。まぁお前みたいな小僧の一人や二人手伝わなくても、家のやつらは大して困らんだろう。怠けたきゃ好きなだけ怠けろ! そうだ、俺ん家に来い! 何か食わしてやる! 俺ん家はこの先にある村一番大きな屋敷だ」
「そのお屋敷知ってる!」
 男の子はそう叫ぶと、屋敷へ向かってうれしそうに走っていった。しばらくすると、遠くからこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてきた。
「せわしない小僧だな、そんなに腹が減ってんのか」
「旦那様、旦那様!」
「なんだ喜助か。小僧を見なかったか?」
「とにかく急いでお戻りください!」
 そう言うと小間使いの喜助は、夫の手を引っ張って急いで屋敷へ向かわせた。
「一体……これは……どういうことだ!」
 戻ると、屋敷にあった蔵が勢いよく燃えていた。
「鍵がかかってるはずなのに、蔵の中に男の子が入っていくのが見えまして、私が慌てて鍵を開けて中に入ったら、蔵に並べてあった小判から突然火が吹き出しまして、あっという間に……」
「何寝ぼけてこと言ってるんだ! 錠のかかった蔵に小僧が入れるわけなかろう! 小判が燃えるわけなかろう! お役人のところへ行って火消し道具を借りてこい!」
 喜助が走っていこうとすると、屋敷の表門の前に村人たちが集まっていた。
「おぉ村の衆、ちょうどよいところにきた。褒美を出すから、蔵の火消しに手を貸してくれ。川から水を……」

1 2 3 4 5 6