小説

『花田の桜』立田かなこ(『花咲かじいさん』)

 花田の脇の下と足を持った少年達は、重そうにしながらも縁側まで辿り着くと、そこに花田を寝かせた。
 栄二の父……医者はすぐに来た。本当は動かさない方が良かったんだけど……と言いながらも、患部に湿布を貼る。
 幾分か楽になった花田が、お礼にと小遣いを渡そうとすると、長身の少年が笑った。
「いえ、MVPはこのワンちゃんですから」
 彼、夏広の指差したペロは、他の少年達に思い思いに撫でられデロデロに溶けていた。
 夏広の話では、四人は近くで遊んでいた所を、ペロに呼ばれたらしい。
 彼は続ける。自分たちは学校が終わったらいつも暇をしているので、桜の世話を手伝いたいそうだ。
「またぎっくり腰やられても、困りますから」
 そう笑った。花田も、縁起でもないとつられて笑う。
 その時、夕方のサイレンが鳴った。夏広は、帰らないと! と三人に促す。唯一中学生の彼はしっかりしており、散々ペロと遊んだのにまだ足りないとぶー垂れる小学生達を引っ張る勢いで連れ帰った。
 嵐のようだったな、と花田はペロに声を掛ける。ペロは意味を分かってか否か、一声吠えた。
 四人は早速翌日から、学校帰りにやってきた。肥料を運び、土を起こし、水をやり……。花田がしようとした事は全て、俺がやる! と横取ってしまった。だが、楽しそうに仕事をする彼らの笑顔を見ると、花田も心なしか元気になった。
しかも、ねぎらいに作ったあり合わせの肉野菜炒めを、美味い美味いとがっついてくれる。
 栄二はピーマンを除けようとして夏広に叱られていたが。
 ああ、人と話すのはこんなに楽しかっただろうか。気がつけば、花田の皺だらけの固い顔がほころんでいた。

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