小説

『二年目でも待てない』平大典(『三年目(江戸)』)

 僕は机の上を睨みます。そこにあるのは、大量の女性のお見合い写真でした。
「これはなんですか?」
「散歩の帰りに、結婚相談所へ行って登録してきたんだ。で、写真もいただいてきたのだよ」
 どうしたというのだろうか。
 昨日の出来事で、気が動転しておかしくなってしまったのでしょうか。
「なぜですか? またお見合いに行くのですか?」
「そうだ」
 おじいちゃんは頷きます。
 昨日の出来事で、百年の恋も冷めてしまったのだろうか。
 いや、違うのでしょう。
 おばあちゃんの嫉妬心。
「まさか……」
 おじいちゃんは満面の笑みです。
「お見合いすれば、また妻の霊が出てくるだろう」
 僕は一旦返事をするのを吞み込みました。
「おじいちゃん、それは……」
「なんだい」
「相手に失礼ではないかな。そんなお見合いに呼ばれて、幽霊を見せられるなんてのは」
「じゃあ、どうすればいい」
 おじいちゃんは顔をゆがませました。
 僕は提案してみました。
「一方的な片思いが許される行為でいかがでしょうか、例えばアイドルのファンクラブに加入するなど。ついては、来月 幕張で開催されるライブがございまして……」
 こうして僕たちは、来月一緒に僕がおすすめするアイドルのライブに一緒に行く運びとなりました。
 あわよくばの話ですが、おばあちゃんの幽霊もアイドルにはまってもらえれば、三方良しで丸く収まるのでしょうか。どうなんだろう。

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