小説

『二年目でも待てない』平大典(『三年目(江戸)』)

 おばあちゃんが亡くなって二年近くが過ぎていましたが、おじいちゃんはふさぎ込んで悲嘆に暮れたままでした。
「あのままじゃ、こっちまで気が滅入るかも」お母さんはテーブルの上に肘をついていました。「遺影を見てはため息を吐いて、時々泣いてるんだよ、お義父さん。かわいそう」
「確かにね」僕も同意しました。制服のブレザーを脱いで、お母さんの向かい側に座ります。「四十九日が過ぎれば、一周忌が過ぎればと期待しましたけど、回復の基調が全くみられませんね。毎日通夜では、僕も気持ちが晴れません」
茶を啜ったお母さんは僕をじぃっと見つめました。
「あんたもあんたで、なんでそんな話し方なんだろね。高校生とは思えないんですけど」
 僕は腕を組みました。
「遺伝やら居住環境やらの因子が影響しているのでしょうね」
「遺伝子ではないと思うけど。……あんた、趣味とかないの」
「最近は、友人たちとアイドルにはまっております」
「え」お母さんは目を見開きました。「そうだったの?」
「とはいえ、アイドルのファンとはお金がかかるものなんですよ。ライブにも行けず、グッズも買えず。インスタなどをチェックしたり、映像を観たり。友人たちとは討論するのみで、あまり活動出来ていないのが実情です」
「そんなんじゃ、小遣い増やす理由にはならないねえ」
「まァ、僕よりもおじいちゃんですよ、問題は」
「うん、そっちが本題だからね。今日も今日とて、二時間以上墓参りに行っていたらしいし」
 うむむと唸ったお母さんは壁時計を見つめます。
 おじいちゃんは地区の会合で不在でした。
「お酒が入っても、おばあちゃんとのおもいでばなしばかりで、僕もいい加減疲れてしまいますよ。長崎に旅行へ話なんか、百回は聞いています」
「私なんか千回は超えてるんじゃないのかな。私なんかあんたより顔を合わすから余計にねえ」お母さんは背筋を伸ばしました。「そこで、ノブ君にお願いがあるんだけども」
 少し嫌な予感がします。
「なんでしょう、お母さん」
 お母さんはおもむろに机の上に一枚の写真を置きました。
 バストアップの老齢の女性が写っております。ほんのり化粧をして、髪の毛も整えています。一瞬だけ、おばあちゃんの遺影かと思いましたが、違います。
 見知らぬ老齢の女性です。
「桜井さんていうのこの人。近所の人に紹介してもらったんだけど。あの、まあ、探しているらしいんだよ」
「何をですか」
 お母さんは薄気味悪く微笑みます。

1 2 3 4 5