小説

『二年目でも待てない』平大典(『三年目(江戸)』)

「お見合い相手。旦那さんが一〇年くらい前に癌で亡くなっていてね。終の相手を探しているだって」
「まさか」僕はお母さんを睨みます。「おじいちゃんをお見合いさせようというのですか、お母さん」
「正解。なんと、おじいちゃんとも同い年」
「ですが」
「言い方はアレだけど、お義母さんと似たところもあるんだよ。桜井さんもおばあちゃんみたいに毎日綺麗に化粧するのが日課みたいだし」
 確かに、おばあちゃんはいつでも化粧をしているハイカラな人だった。
「それ以外は?」
 お母さんは、宙を睨みました。
「それ以外は、わからないけど。ま、ものは試し」
 検討の必要がありました。
 おばあちゃんが亡くなってからのおじいちゃんを思い出します。
 毎日仏壇に線香をあげるのはもちろん、時間があると散歩だと言って、墓参りへ行きます。家族共有のパソコンで、ポータルサイトの閲覧履歴を見てしまったことがありましたが、『亡くなった 妻 会う方法』なんという実も蓋もない検索をしていました。
「お見合いですか。……無理でしょうね。固辞しますよ」
「わかっておりますよ」お母さんは僕をじっと睨みます。「だから、ノブ君、あんたが説得してきてよ」
「お母さんがすればよろしいでしょう」
「私の言うことなんか聞きやしない。こういうのは孫の役目でしょ」お母さんは髪をかき上げます。「成功したら、特別にお小遣い」
「どれほど?」
「三千円。あんたはお小遣いでハッピー、お義父さんは新しい恋を見つけてハッピー、私は陰気なお義父さんを見なくて済んでハッピー。三方よしよ」
「ううむ」僕はあごを摩ってから答えます。「一両損になるやもしれませんが、やりましょう、お母さん」

 
 おじいちゃんが会合から戻って来ると、僕は桜井さんの写真を手に、二階にあるおじいちゃんの書斎に向かいました。
ドアをノックすると、「はいはい」と声がしました。
 中に入ると、おじいちゃんは書斎の端にある机の上で本を読んでいました。
「おじいちゃん、ちょっとお話が」
「ノブ君か、どうしたっていうんだい?」おじいちゃんは本を閉じました。
「ご提案を持ってきました」
「なにやら厭な予感がするよ」
「まさかまさか。いいお話です」

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