小説

『駆け込みパッション』もりまりこ(『駆け込み訴え』)

 だれもおれのことなど知らない。ずいぶん昔、復活し損ねて、やっと復活したと思ったらそれが今日だった。
 春分の日のあとの最初の満月の次の日曜日っていつやねん。
 それってお父さんの妹の子供が生んだはじめての双子みたいな感じでややこしい。
 復活の日。だから、それが今日。

 あの日、湯田が言ってた。きみの復活なんて信じてないよって。
 かまへんよべつに、湯田に信じられへんでもおれはぜんぜんへーきってなもんで。余裕かましてたら、ほんまに死んだままやった。3日経っても、墓の中はちゃんと、おれがいて、からっぽでっせみたいなことにはなってなかった。
 まぁおもい返せば、あいつにえらい安い金で売られて、ちくられたわけやけど。ちくられたっていうか、ちくられることをふたりで謀ったっていうのがほんとのところで。
 湯田はぜんぜん裏切り者でいいよって標準語で言った。
 そういう役を買って出てあげるって。嫌われるのいやじゃないから。そのほうが、みんなの記憶に残るから。ぜんぜんかまわないって。
 どういうこと?
 いえっちゃん、名を上げたい?
 え? 名を上げるって有名ってこと?
 うん、よければぼくがいえっちゃんを人気者にしてあげる。やってみたいんだ。こういうの知ってる?<生を生きた無名の空間であり、無名ということはすべての人の空間でもある>って言葉を美術家の人が言ってたの。これは土に関して思ったことらしいんだけどね。土、つまり生命ね。生きてるってすべからく無名なんだけど、たった一度の人生だし名を上げるってことに必死こいてもいいじゃん。
 だから?
 だから、いえっちゃんを教祖にしてあげる。んで弟子とかは適当にみつけてきてあげる。だっていえっちゃんは神の子だからね。12人ぐらいでいいかな? 
 いえっちゃん、ところで人気って何か知ってる?
 返事をしようとした側から湯田が口をはさむ。はなからおれが答えられないことを知ってる素振りで。
 人の気配なんだって。その人の後ろに人の気配がいつもしている人が人気者ってことなんだよ。だから弟子達をぞろぞろひきつれて歩いて布教すればいいんだよ。ぼくはその中の裏切り者の役でいいよ。いい人と裏切る人っていう対比は、みんなの記憶の中にフィックスするんだから。やってみよう。いえっちゃん。
 その前になんども、<わたしの友が裏切る>って弟子達に言って聞かせるんだよ。ってやけに嬉しそうに言った。
 どんなあほでも覚えられるわっていうぐらいリフレインしながら、みんなの耳に潜ませた。
 またあれっしょ。友がうらぎるってやつでしょってぐらいウザがられたけど。
 湯田はそれが後でじわじわ効いてくるっていうから、いいつけを守った。おれもなんていうか根があほなんやな。ちょっと賢そうなんに弱いねん。

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