それから、買い物を済ませ、意気揚々と店を出ると、女が満面の笑みで俺を出迎えてくれた。
「ありがとうございま~す」
女は俊敏な動きで、俺から強引に箱を奪い取った。そして箱を服の中に入れた。平坦だった胸が、一気にGカップぐらいになった。もちろん丸みはなく、なんだか角張っていて変だ。
「巨乳になっちゃった~」
舌っ足らずな言い回しがとにかく可愛かった。俺は頭がホワホワとして、笑顔で立ち去る女をそのまま見送ってしまった・・・。
(2)
「最悪だ・・・」
喫煙所に腰をおろした俺は、一人ごちた。数時間振りの一服は、至福の一時となるはずだったが、ただただ苛立ちが募る。指と指の間に強く挟み過ぎた煙草が折れた。先端部分が地面に転がった。
誰もいない、灯りもない、闇の中。
オレンジ色に光る炎を俺は、靴底で踏み潰した。
財布を確認すると、スッカラカンになってしまった。誰にも俺の哀しみ、怒りなど理解できやしない。この世界に、1カートンもの煙草を騙し買わされたことのある人間なんて、俺以外にいないのだから。
そして、俺は重い腰を上げた。前へと進んでいく。人はどれだけ傷つこうと前へ進んでいかなければならない。それが、人生だ。
(3)
俺が辿り着いたのは、七号館の一階にある「オアシス」だ。ここには、購買と休憩スペースが設けられている。いつでも学生で一杯だ。
ただ、万人にとっての「癒やしの場」とは、とうてい言い難い。
というのも、空間の中心、という目立つ場所にあるソファ席にはいつも、大学生にもなって不良ぶった連中がたむろしている。
講義にも碌に出ず、朝から晩までずっと馬鹿騒ぎを繰り返している。それを煙たげに見ようものなら、「なんだ、何か文句あるのか!殺すぞ!」と叫び、威嚇してくる。
そのため、普段、俺はそちらを一切見ないようにしているが、購買のレジを済ませている間、思わずそこに目がいってしまった。
ソファにどっかり腰をおろす男・・・洒落ていない短髪、表面に猿がでっかくプリントされたオレンジのトレーナー、紺色のズボンを着衣している。それが、ソファではなく土管ならば、完全にジャイアンだ。
自然と、その取り巻き連中にも目がいく。
偽ジャイアンの隣にいるのは、全身がダボッとした服装のBーBOY擬きの男。その隣も同じくBーBOY擬きの男。それから同様のタイプが数人続いた後、足を投げ出すようにして座っているのは、なんと、先ほどの美人局ではないか!
「ブッワハハハハ!」