小説

『若者はみな楽しそう』くろいわゆうり(『さるかに合戦』)

 俺は扉を開くと同時にバス停まで疾走した。
 無我夢中で走っていたが、思わず口角があがってしまう。今は気づいていないだろうが、後ろ髪に手を触れる時があるだろう。
 その瞬間、不快感に充たされ、やり場のない怒りに打ち震える偽ジャイアン・・その姿を想像するだけで笑える。この時期は蜂が活発に飛んでいるだろう。甘い蜜に誘われて、奴に寄ってくるわけだ。ハハハ。お前も毒牙にかかるが良い! ・・・美人局にも罰を与えたかったが、偽ジャイアンに逆らえず無理矢理やらされているのかもしれない。それに俺は、女には手を出したくない。根っから紳士な男なのだ。

 薄暮になると、春にしてはひんやりとした風が吹きはじめたが、火照る身体にはそれが心地よかった。青春の香りを感じながら、ちょうどきたバスに飛び乗った。
 その際、右足を少し捻ってしまった。そのときは特に痛みは感じなかったが、翌日、足首の内側がぶっくり腫れていた。
 近所の整形外科に行くと、軽度の「捻挫」と診断された。

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