小説

『祈り』多田正太郎(昔話『雨乞い』など)

ツギクルバナー

祈祷師だろか?
まさか、こんなところに、な。
いや、こんな時代に、かな。
そんなこと言われたらよ。
祈祷師だって困るだろうさ、きっとよ。
随分、肩もつんだだなぁ。
肩もつ?
ああ、そうだろうさ、呼んだ手前だろ。
カッパのお前に、言われたくないな。
カッパで悪かったな。
まぁ、俺もカッパだけど、よ、ハハハハ。

ここにあるのは、湖畔の祠だ。
吊り下げられた、しめ縄に紙垂。
これ目にしていると。
こんなやり取りが、聞こえてくる。

雨乞い、よ。
雨乞い? 
そうよ、雨乞い、ジュジュツとか、でよ。
 ジュジュツとか、だって?
 ああそう、よ。
呪術、こういう字、書くんだぞ。
 それくらい、分かってるさ。
決まってらーの、コンコンチキよ!
 コンコンキチ? 江戸だな、出が、よ。
 別にいいけど、おれに向かってよ。
コンコンチキは、ないべさ。
 アホなキツネづらのお前に、ピッタシよ。

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