結城は会社の一室で声を潜めて打合せをしている。前に座っているのはダークグレーの背広に地味なネクタイを締めた男で、口角を上げ静かに結城の言葉を待っていた。結城はテーブルの上の名刺と目の前の男を交互に見ながら、決めかねているようだ。
「カブラギさん、ちょっと高過ぎませんか?」
「当社は常に100%の結果を出しております」
「それはおかしいですね」と結城は少し声高に言った。
「すべて100%の結果なら、どうして価格設定に差があるんですか?」
「Aプランが100%、Bプランが90%、Cプランが80%です。例えばお客様がBプランをお選びになりまして90%成功しましたら、お受けしましたBプランの結果は100%成功したということになります」
なるほどと結城は思った。けむに巻くような説明だが一応筋は通っている。
「では、その90%の結果はどう判断するんだ?」
結城の質問に、カブラギはパンフレットを取り出し説明を始めた。
カブラギの会社「株式会社D」は、いわゆる「Dカンパニー」と言われている「別れさせ屋」だ。案件は顧客ごとに細かなメニューを作成し、ここまで達成したら80%、ここまでなら90%、全て達成できたら100%と予め決めておくのだという。
説明を聞いて結城は納得した。一人で処理をするのは無理がある。今は仕事が忙しく、美玖とのデートの時間も確保しなければならない。急いでいるのだ。速やかにかつ確実に結果を出さなければならなかった。
結城はモテた。背が高く、甘いルックスは人目を引くほどだ。大学は国立大を卒業後、某私立の大学院を出ている。両親は普通のサラリーマンだが地方に土地付の家屋敷を所有している。経歴に問題はなかった。
結城は女と付き合い始めると、いつも長かった。別れ話が苦手なのだ。女に泣かれると、どうしていいか分からなくなる。だからそのままずるずると付き合いが続くことになる。その結果、同時に付き合う相手が増えていった。
今、付き合っている女は5人いる。そのうちの1人、美玖と結婚の話になりそうなのだ。美玖は結城の会社の副社長の娘で、いわゆる逆玉の輿だ。美玖が結城との結婚の意思を両親に報告する前に、他の4人と別れ身ぎれいにしておきたかった。