高校生になったという実感も湧かないまま、明日からゴールデンウィークを迎える事となった5月1日。まだクラスに友達が居なかった僕は、教室の一番後ろの席で5連休にはしゃぐ訳でもなく、ただ淡々と鞄にプリントを仕舞って帰り支度をしていた。他のクラスメイト達はみな連休中の予定の話題で盛り上がっている中、僕と同じ様に無言のまま帰り支度をしている女子が居た。
(えっと、あいつは……和泉だったっけ)
肩まで伸びたストレートヘアに、太陽の光さえ触れる事を憚れたかの様な白い肌。すっと通った鼻筋に、目尻がキリッと上がった大きな瞳。どうしてこれ程までの容姿を持った彼女が、僕と同じくらい存在感が無いのだろうか。いや、彼女の場合は僕と違って存在感を自ら消しているといった方が正しいだろう。
(そういや、あいつも友達居なさそうだな。僕と一緒で人付き合いが下手なのかな)
彼女に対して妙な親近感が湧きかけた頃、ふいに隣から女子達のヒソヒソ声が耳に入った。
「和泉さんってさ、両親居ないんだって」
「あ、知ってる!おばあちゃんと二人暮らしなんでしょ?」
「なんで両親居ないの?二人とも居ないって変じゃない!?」
「死んじゃったとかじゃない」
「それか、捨てられたとか?」
「えー、それって酷くない!?」
(くだんねー。勝手に人の事決めつけて。勝手に軽蔑して、同情して)
女子達の身勝手な会話の渦から逃げる様に、僕は足早に教室から去って行った。
「はぁー、いい天気だー」
今日初めて僕が自分の声を聞いたのは校門を出た辺りだった。雲一つない青空に向かってうんと腕を伸ばす。
「さて、今日も行きますか」
先程まで学校で見せていた顔とは比べ物にならない程、僕の目は輝き口元は緩んでいた。逸る気持ちを抑えつつ、学校からスタジオへと軽い足取りで向かう。ここから徒歩10分程なのだが、その移動時間ですらもどかしい。