小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

 アカネの少し常軌を逸した泣き声と素振りに、クラスメイトのうち何人かのお調子者たちが、同調した。
「幸太郎、なんで死んじまったんだよ」
「俺をおいて逝くなんて」
 奇妙な高揚感がクラス全体に感染しだした。
  担任が現れた。普通ならここでお終いになるはずだった。だが、クラス全体に感染した高揚感は入ってきた担任を圧倒した。担任はクラスの奇妙な雰囲気に呑まれてしまった。
「いったいどうしたんだお前ら。授業始まるぞ」
 幸太郎の机の周りには泣き崩れる者が増えていた。
「先生も早く、焼香をお願いいたします。今日は幸太郎君のお葬式です。先生で最後です。先生にやっていただけないと、終わりません。幸太郎君も先生に焼香してもらいたいそうです。そうしなければ、授業になりません」
 アカネはそう囁いた。
「おいおい、幸太郎、いったいなんだこれは」
 アカネは担任のお気に入りだった。担任は戸惑いの捌け口を幸太郎に向けた。
「ナームアミダー、ナームアミダー」
 ケイタの読経は続く。それに唱和する者も現れた。
 担任もまた感染したのだろう、悲しい演技を交えて、
「さようなら幸太郎」
 そう涙声を真似ながら焼香のふりをした。
 

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