「他でもない君に喋っているのだけどね。さまよえる魂を導くのも預言者たる私の務めだ。いいだろう。君にとって必要な真実を語ろう。おいで、ミラ。これはきみにとってのテストでもある」
アッシュグレイの少女──子犬を連想/主人の命令を守る/躾けられた従順さ。
「ミラ・ペーパー。科学技術で設計された
「そんなことが本当に可能なのか?」俺は、クリストファーの言っていることが半分も理解できなかったが、当たり前に過ぎる疑問を口にした。
「肉体が遺伝子を運ぶ乗り物に過ぎないのならば、心もまた言葉を入れておくための箱にすぎない」
俺は何と答えれば良いのかわからなかった。それに返す答えを俺は持ち合わせてはいなかった。出来の悪い生徒のように口を噤むしかなかった。
──
そうミラが歌った/頭の中で雷撃を喰らったような衝撃/まだら髪の男がミラの背をこちらに押す/子犬はためらいなくこちらに向かう。
「ミラの有用性を証明したまえ。そして義務を果たせ。ずっと手遅れになる前に」
こちらの有無を言わさず、一方的に子犬を押し付けられた気分──ミラと目が合う/なんとなくミラの意図を察する/こいつが新しいご主人か。
クリストファーの居城を後にする/ミラが先行する──はじめから行き先はわかっている、とでも言いたげに。俺は駐車場に止めたセダンのドアに手をかける/視線を感じて振り返る/
「あんたもあのわけのわからん男に誘いこまれたってわけだ」セルゲイはそう言った。ということは、やはり十年前の事故がキー・ワードってわけだ。
「十年前の事故に何がある?」
「アレは事故だ。そういうことに、しておけ。あそこには被害者しかいなかった」