小説

『Ignite』木村浪漫
(inspired by小説『マルドゥック・ヴェロシティ』)

 ──届くだろ、小さな英雄さん。そろそろ感覚フィーリングが縦に揺さぶられてもいい頃合いだ。矛盾なくおまえの良心ってやつはおまえの中に内包されている。あの時炎上するスクールバスの中でデバックプログラムを叩き続けたのは、他でもないおまえなんだから。
力無くアーネストの両腕が下がる/システムへの命令コマンドが止まる。
 「僕は……あの時、本当に事故を止めたかったんだ」
 ──それは、剥き出しの少年の声だったように思う。

 
 演奏が終わる。もっとずっと弾いていたいような気もしていた。だが、ここまでだろう。
 ミラ=エリザが振り返る。アッシュグレイの髪が灰にまだらに塗れて最高にロックだと思う。
 「わたしを、エリザをもう一度歌わせてくれて、ありがとう。フライト。……最高の演奏でした。もっと前に、あなたが側にいてくれれば、よかったのに」
 ──心からそう思う。セレモニーホール・百万人ライブ・俺たちの音楽。エリザとなら、夢が夢のまま終わることはなかったように思える。
 「もっとずっと歌っていたかった。だけど。私にさよならを、弾いてくれますか」
  俺がギターのフレットを押さえる前に、強い風が吹いた。誰かが何処か遠くに行ってしまうように。
 きょとん、とした表情で、ミラは言う。
 「わからないわ、フライト。……どうして、あなたはそんなに辛そうにしているの。どうしてわたしは、泣いているの。大切な人にもう二度と会えない。こんな気持ち、わたしはまだ、知らないわ……」
 俺はミラの髪を抱きしめる。ギターのフレットを押さえるように。ミレミ・ララララ・ラララ・ラララ・ラ・ラ──痛みを止められるのは涙と同じだけの優しさだけ。
 ミラが顔を上げる。泣き顔のまま。
 「歌おう、フライト。この気持ちが、消えてしまう前に」

 
 ジェシカが殺された理由──仕事帰りにジェシカを買ったアーネスト/ベッドの中で仲良くなる/ジェシカの右足の火傷/ジェシカが九年前の事故現場に居合わせたことを知る/ベッドの中で怖くなる/強迫観念に駆られる/彼女が本当のことを喋れって言っているような気がして/その足でD・ブレスを調達/乗用車を操作スナーク/ジェシカを薬漬けにして盗難車に放置。

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