小説

『Ignite』木村浪漫
(inspired by小説『マルドゥック・ヴェロシティ』)

 なんてこった、とランド。「ジェシカは女の子と寝たって言うのか」
 少女の使った電話番号──クリストファー・ロビンプラント・オクトーバー/現在も使用されている/盗難の線は消えた。
 「男の名前だ。女装癖のある金持ちのガキってところか?」
 ランドのいつもの顰め顔。検索終了ってところか。
 「クリストファーはオクトーバー社の四男の名前だ。軍の研究者だったはずだが」
 連想──軍でのテーマ/例えば化学兵器/戦争が終わったため必要がなくなった化学薬品/ダークタウンでの取引/軍の薬品を麻薬に転用/不要となったものを再び必要とされるものに/再生/リサイクル/満たされる研究者としてのプライドと貯蓄──。
 「思い出したぞ。クリストファーのテーマは医療工学だ。ふん、そんなにがっかりするなよ。お前が考えていたことを当ててやろうか?クリストファーは負傷兵に最新の義肢を開発していた。サラノイ・ウェンディとチャールズ・ルートヴィヒと並んで三博士と呼ばれる一人だ」
 「そいつが“ドラゴン”なら話は早かったんだがな。……だが、気になるな」
 少女を使ってジェシカを買ったクリストファー/あからさまな違和感/開示された情報/隠す気のないクリストファーの素性は、わざと開いた胸襟を連想させる──誘いの意図。
 「飛び込んでみるか?」
 ──答えは言うまでもない。

 
 ロビンプラント・グランドハウス/駐車場付きの四階立てのビル──まだ使いこまれてはいない/応接室に通される/法律関係の事務所にも見える/法律で守るため/法律で戦うため/警戒心が呼び起こされる/クリストファー・ロビンプラント・オクトーバー──まだらに染められた髪/洒落者が好むスーツ/意図されたおふざけ/ようこそ、私の城砦へ!/ RPGに出てくるような魔法使いの口ぶり。
 「捜査のため、あなたに伺いたいことがある」単刀直入に切り込む。「ムーンライトで少女を使って買った娼婦について。そこであなたは何を得た?」
 「伺うのは構わないが私が答えるとは限らない。君たちは事実を好きなように切り取り、自分にとってもっともわかりやすいという形で真実を歪めてしまう。君たちは私に説明責任を求めるが、情報の受け取り手たる君たちは、一体どのような義務を果たしてくれるのかな?」こいつの言う『君たち』が、誰を指しているかはわからない。
 「俺に向かって喋ってくれないか。ミスター・クリストファー」

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