「だけど、やっぱり、自分さえ良ければ、他のことはどうだって良いんですよ」
路肩に止めた俺のセダンのエンジンが駆動する──アーネストの手には掌サイズのPC/サガミ・インダストリの『DIVE.int』からの
殺意を持ってセダンが俺たちに突進する/俺は拳銃を抜いて引き金を引く/青のワゴンが生き物のようにアーネストの盾になる。
操作/赤のスポーツタイプ・操作/青のワゴン・操作/白のセダン。
赤、青、白のトリコロールが路面にラインを引いて俺に迫った。赤を避ける・青を避ける・白の後部座席のドアが開く・衝撃・避けた先の赤と青が激突する・流れ出すガソリン=質量を持った悪意の三重殺。
気化したガソリンが爆破炎上する/ミラに手を引かれる/爆炎が届かない場所なんてわかりきっている、とでも言いたげに。
三つの人格が平行して演算処理/三面六臂の阿修羅ぶり。
ここに誘いこんだのか/ここを死地と定めたのか/この街から逃げ切るのか。
おそらくはそのどれもが真実だ。それらが矛盾なくアーネストの中に内包されている。
対してこちらの頭は一つだけだ。いずれ処理が追いつかなくなって轢き殺される。
爆炎が続く熱が俺の肺を焼く。熱と煙に歪む視界。後ろにはなにもない。ただ、まっくらなくらやみがどこまでも広がっている。
十年前の再現が始まる/もう一度あの地獄の光景が蘇る/どこかぼんやりとした明晰な頭の中で思う。
──
「──前に進めなくなって。そのままどうしようもなくしゃがみこみたくなって。まっくらなくらやみにいるときは、いつもそう。わたし、いつだってそうでした。ステージに立つ時も。今だって、あの時だって。熱で喉が焼けて。苦しくて息ができなくて。でも、歌わなきゃ、って思った」
──こんなに絶対絶命の状況で、おまえはいったい何を叫ぶって言うんだ。
「あなたの
──ギターが手渡される。手渡されたギターは、何故だかひどく熱かった。その熱は俺の中の乾ききってしまっていたはずのものに火を点けた。
「もう、その音はあなたの心に生まれているのです」
──そうだな。エリザ。そんなことはじめからわかっていたよ。
俺のギターに合わせてエリザが歌う。暗闇に火を点けろ、夜に火を灯せ、と力強く。燃え盛る炎なんかものともせずに。誰もが暗闇に立ち向かう光を持っている、と。