小説

『Ignite』木村浪漫
(inspired by小説『マルドゥック・ヴェロシティ』)

まっくらな闇が、ずっと広がっている。

暗闇に火を点けろ、夜に火を灯せ。

暗闇に火を点けて、朝を歌おう。

けれど、まっくらな闇は冷たく広がって、心に灯った炎を消してしまう。

そうしたら、私にできることはもういくつもない。

息を殺して。目を閉じて。

風に歌を託して、夜が明けるのを、じっと待とう。

『Ignite』 inspire for 『マルドゥク・ヴェロシティ』&『もらい泣き』

誰もが暗闇に火を点けられるんだ。

 

──叩きつける酸性の雨が、銃弾みたいに冷える夜だった。

 過去。十年前。フラッシュガン交差点。事故現場。信号機に打ち付けられたバンドワゴンからは、音響機材が投げ出されている。ワゴンにロボット制御のタクシーが激突する。爆音が響く。通報を受け駆けつけた俺の横で、カメラの閃光フラッシュ。セルゲイ・ブリズギナ。テレビ局所属のカメラマン。炎上したスクールバスの中で、逃げることを忘れノート型のPCを打ち続ける少年。歌う声がどこからか聞こえていた。ゼア・アイ・スティル・ダークネス。閃光フラッシュ。乗用車の暴走は続く。歌がかき消されてしまう。オクトーバーのシティライドが突っ込み、キリヤマのバイクに乗ったライダーの首が宙を舞う。

 そして一際大きく閃光フラッシュ

 「──フライト。フライト!フライト・マクダネル刑事!」
 俺をよぶその言葉が、束の間の明晰夢から呼び戻した。
 マルドゥク市警=俺の職場。目の前の男=抜群の記憶力を持つ俺の相棒、ランデル・コーンウェル。

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