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『その夜のこと』たてがきるか

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「中学生って、コドモだよな」
 赤瀬は机に伏して、窓の方に顔を向けていた。
「うん…」
 儚い姿だ、とても。
「中学生のときはさ、自分はだいぶ大きくなったなって、思ってるじゃん。中学生目線だと、もう一人前…とまではいかなくても、四分の三人前みたいな気持ちでさ」
 赤瀬の頭がかすかに揺れる。窓から入る青白いヒカリ。急に彼が消えてしまいそうな気がする。
「だけど大人から見れば、中学生なんて本当にコドモ。だって小学生の次だぜ? ガキだよ。中学生になるまで成長してきた月日より、大人になってから大人として過ごす月日の方が圧倒的に長い。俺たちは、そのことに、気づいてなかったよな」
「……うん」
 手を伸ばせば届く距離に赤瀬がいる。それはずっと望んでいたこと。中学生のときは想像していなかったけど、最近は、二人になることをたくさん想像していたんだと、今気づいた。
「さあ」
 ガタガタと大きな音をたてて椅子を引き、赤瀬が立ちあがった。
「どーする? 何でもできるよ。机ぜんぶ校庭に投げるとか、教室に消化器ばらまくとか、個人情報持ち出すとか、なんでも。悪いことしてるのに、俺たちその中で自由だよ」
 赤瀬はおかしそうに言った。
 生徒会として正義を求め、悪に立ち向かっていた会長の赤瀬と、副会長の私が、今、悪いことをしようとしている。
「それは……」
 誘ったのは私なのに迷う。やっぱりそんなことできない。理性にも常識にも抗えない。でも簡単に抗えていたら、私たちは最初から悩んだり落ち込んだりしない。
「カタいなあ…」
 悩む私を見て、不意に赤瀬は笑った。
「ま、俺もカタいけどな」
 言ってから、赤瀬は教室の前の棚に置いてある八色セットのマッキーを取った。教室を出て、廊下に行く。私はあわてて追いかけた。
 赤瀬は黒と赤のペンを二本握りしめ、太いほうのキャップを開けると、廊下の窓ガラスに大きな字を書きだした。
「ちょっと!!!」
 私のことはおかまいなしに、ニヤニヤしながら、でもはっきりと嬉しそうに、赤瀬は字をえがく。
【中学生よ、全力で生きろ!】
 懐かしい赤瀬の字。魂の言葉。出来上がった文字に、次は青やオレンジのマッキーでさらに派手にしていく。
「大人になると、全力な生き方を忘れる。だから何も知らないうちに、全力で生きとけ、ってかんじ?」
 ずん。また染み入る赤瀬の言葉。わかるよ、赤瀬、わかる。私もあなたのその考え方が、大好きだよ。
「潮倉も」
「うん」
 ピンクをとって、【生きろ!】をさらに派手にした。黄色、紫、…二人で星マークなんかも描いたりして。
 完成した芸術に、私たちはひとしきり笑った。
「帰るか」
「うん」
「悪いことしたな」
「うん」
「俺の共犯者だな」

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