成人式に再会してから、また昔みたいに鼓動が跳ね始めていた私。あの大雪の日に、彼は当たり前みたいに私の前に現れて、そうしてすぐに消えた。
だから、待ったのだ、これでも。私なりに、我慢した。
猛暑の七月下旬、時は訪れる。
あれから毎日見ていた赤瀬のブログ。そこには、ついに余裕がなくなって崩壊しそうにすら感じる彼の言葉と、昔の思い出が綴ってあった。
ブログの存在を知らなかった時には、過去と空想だけで作り上げられた赤瀬が私の中にいた。けれど今は違う。私が彼に出逢った時から、一番惹かれている部分である〝彼の言葉〟そのものに再会してしまった。崩壊寸前、だなんて、私の思い込みだろうか、おせっかいだろうか。それでも。
今だ、行くしかない。重い話がしたい。私が赤瀬にしかできなくて、赤瀬も私にしかできない話を。
あの頃、私たちは中二なりに考えて動いて、世界を批判しながらも、子どもとして生きられていた。だけどもう違う。オトナになって私たちが見る景色や現実は,中学校という閉ざされた空間よりも、もっとずっと果てがなくて。
【赤瀬、逢いたい】
【どうしたの】
【逢いたいの。どこにいる?】
【今から?】
【だめ?】
【じゃあ、学校で】
【わかった。ありがとう】
すぐに返事が来た。短いやり取りが交わされた。携帯を握りしめ、私は自転車を走らせる。
中二の頃は、同じマンションの隣の部屋に、おばあちゃんと住んでいた赤瀬。今は一人暮らしのはずだ。まだ地元に住んでいてくれることが嬉しい。
川沿いを行き、夜なのに身体にまとわりつく生暖かい風を切りながら、よく赤瀬と中沢とリサと四人で来た、スーパー十銀屋の前を過ぎ、中学校の前に着いた。
暗闇に浮かぶ門の前に立ち尽くす。思い出と記憶の立ちこめた城。誰もいない、たくさんの人の気配だけを吸い込んだ、私たちのかつての居場所。歩道に設置されていた電話ボックスがなくなっている。時は流れているのだと、思い知らされる。
数分待つと、ゆら…という感じで、自転車に乗った赤瀬が、街灯の下に現われた。
「久しぶり」
「おう」
「早かったね」
「まあね」
ぎこちなくはないけど、なめらかでもない。ただ、百パーセント居心地がいい。そのことを、こんな一瞬で、確かに感じた。
私は赤瀬を、これ以上好きになれないくらい好きだった。赤瀬も、好きでいてくれたはずだ。だけどあれから五年たって、まだたった五年だけど、中学生の私たちはもういない。