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『ミロ』藤原光平

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 二人もそうだったらしく、夏織が
“長いこと居たし、そろそろ出る?”
 と提案し店を後にした。

* * *

 連絡先を交換した初日に今日はありがとうの旨を伝えるメールを柚珠にしてからメールは一 ヶ月程つづいた。一日に二通程のゆっくりしたやりとりだったが柚珠とつながっていれてい ることが嬉しかった。メールのやり取りは文面だけの会話なので、柚珠が耳が聴こえないの をふとした瞬間忘れていることもしばしばあった。好きな食べ物や趣味などそんな他愛ない 話がほとんどだった。
 通学路にある金木犀の小さなオレンジの花が咲き始める頃、私は柚珠をデートに初めて誘った。メールでやりとりをしている時に柚珠が行きたいと話していた美術館の展示を一緒に見 に行くことになった。東京駅からすぐ近くにある三菱一号館美術館で開催されているナビ派と呼ばれる画家達の展覧会だった。
 柚珠とは東京駅で午後一時に待ち合わせだった。
 銀の鈴のまわりには何人か人が群がっていたがすぐに柚珠を見つけた。柚珠はいつもどおりジーパンに白シャツというシンプルな格好だった。
 髪はぜんぶ下ろしていて学校で見かける時よりも丁寧にメイクされているような気がした。 アイラインに若干赤い線をかいているのは初めて見た気がした。そのことを彼女が持ってい たノートに書いて伝えると、照れくさそうに少しうつむいて微笑んだ。
 次の日が祝日の日曜日ということもあって東京駅は混み合っていた。辺りはいそいそと早歩 きであちこち通りぬけてゆくスーツ姿の人達をはじめ、カップル、ディズニーに行くらしく すでにミッキーのかぶり物をしている子供達を連れている両親、学生など色々な人達がいた。私は柚珠と離れないように肩にそっと手を置いて少し後ろを歩いた。身ぶり手ぶりで出 口を指さしてふたりで確認しながらゆっくり出口へ向かって人ごみの中を通りぬけていった。その時私は二人以外の人達はみんな雑音にすぎず、二人だけの世界のように思えた。外 に出ると並んで歩けるようになり肩からそっと手を離し柚珠の隣を歩いた。それから事前に 調べておいた三菱一号館美術館へ向かった。
 美術館には二時間ほど居たらしく柚珠が”少しお腹へった”とノートに書いて渡してきた。それからすぐに携帯で場所を調べて近くのKITTEと呼ばれる日本郵便が手がける商業施 設へ入った。
 入ってすぐに目についた美味しそうなスイーツの看板がでているカフェに入ってコーヒーを二つと各々パスタをたのんだ。コーヒーはすぐに運ばれてきてパスタを待つ間私は以前から 気になっていたことを柚珠に尋ねることにした。
“柚珠って、なんでSNSやってないの? ほら、ラインとか”
“私耳が聴こえないから本当はラインってすごく便利なの。
だって聴覚しょうがいの人でも会話みたいなテンポでやりとりできるから。それで以前やってたことはあるの。”
“どうしてやめちゃったの?”
“人間関係を築いていく上で大切なのは言葉じゃないと気づいたから。現代社会はコミュニケーションの効率化を求めすぎていると思う。その結果非効率的になっているんじゃないかな
そう思ったの。”
“少し難しいな。どういうこと?”


“例えば、旭って普段「ありがとう」とか「ごめんね」とかをSNSで使う時どれくらい感 情を込めてる?”
“あんまり考えたことがないな。

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