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『ミロ』藤原光平

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でも言われてみるとそんなに感情込めてない気もする”
“そう。多分、多少の感情はあってもSNSを介してだとすべて伝えるのは限界がある。 伝えるって尊いんだよ。”
 そうノートに書いた柚珠はすごく格好良く見えた。
“私の好きな言葉で
「想いを思えば、思いを想うことが大切だと気づく。」という言葉があって。
それを理解したくてずっと考えていたんだけど、
今の柚珠の話を聞くとそういうことなのかもしれないと思った。”
“素敵な言葉。すごく共感できる。
「思いは想えば」伝わると私も思う。 それがコミュニケーションでは一番大事”
 柚珠は耳が聴こえない分、コミュニケーションに関して、音として聞こえる言葉や形として 見えるものではなく、心で通じることが大事だと気づいているのだ。コーヒーを静かに一口 そっと飲んだ彼女を私は尊敬のまなざしで見つめていた。そのころ、丁度パスタが運ばれて きて手を合わせて食べた。その時私は「いただきます」とは言わなかった。
 その後カフェを出てから、店内を一通り歩いて回った。二人でゆっくり買い物を楽しんだ。買い物で回っている時に気になった、KITTEの常設展示「東京大学コレクション」を最 後に二人で入った。中には骨格標本や博物標本が所狭しと並んでいた。ミュージアムのよう な感じもしたが、博物館の倉庫に迷い込んだような感覚に陥った。全体に目を通した後、東 京駅が見える大きな窓のある所で二人並んで外を眺めた。外はもうすでに暗くなりはじめて おり、駅周辺のビルの明りがキラキラと輝いていた。東京駅から人が虫のように沸いて赤信 号の前に立ちつくす。青になると同時に、白黒のストライプ柄の道路にその虫たちが行き交 う。その一部始終を二人ずっと無言で見ていられた。私は昔からこういった高い所から人の 動きを見るのが好きだった。
 そんなことを思いながら、何度か人が行き交うのを見ていると、
“私こういうの見ると落ち着く”
 と、柚珠は私に言った。
 私もそれにうなづき、また人の流れに目をやった。かれこれ三十分くらい見ていただろうか。
“そろそろ出ようか。”
 私は柚珠に提案した。柚珠もそれにうなづき、私たちは博物館を後にした。KITTEを出 ると今まで私たちがずっと見ていた交差点の前に出た。赤信号で立ちつくす私たちは虫の一 匹になった。青になったのを確認して白黒のストライプ柄の横断歩道を、さっきまでいた大 きな窓を見上げながら歩くのだった。

* * *

 待ち合わせは渋谷だった。柚珠が前から行きたがっていたカフェに行く約束をしていた。そのカフェは渋谷のスクランブル交差点を直下に見下ろすことのできる三階にあるカフェだ った。カフェの前に着くと柚珠はもうすでに待っていた。近づいていくと彼女は気づいて手 を振ってくれた。カンカンと晴れた渋谷のど真ん中で彼女は一瞬で見つけられる程美しかっ た。
 店の中へ入ると、八割くらいの席はすでに埋まっていて窓際の席はすべて埋まっていた。窓 際が空くまで待つと店員さんに伝え、用意されていた椅子に座って二人並んで待った。
 数分後、スクランブル交差点が一望できる席に通された。席につくと私たちは顔を見合わせ て驚いたような顔をした。以前東京駅で見た、虫のように人が行き交う交差点の何倍も迫力 を感じた。彼女はまた、その様子にとりつかれたように見入っていた。

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