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『ミロ』藤原光平

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 その日は大学の親友である夏織と会う約束をしていた。夏織とは、大学の違う学科が集まってするグループ学習の時一緒になって仲良くなった。夏織は介護福祉学科に所属していた。実に社交性のあるどんな人にも好まれるタイプの女性だ。当時はまっていたアーティストが 同じで意気投合した。それがきっかけで仲良くなり、休みが重なるとよく外へ遊びに出てい た。
 待ち合わせ場所の渋谷駅に着いた時、夏織からラインが来ていた。
“大学の実習が長引いてしまって少し遅れそう。ごめんなさい。あと、今日仲良くなった子も連れて行くね。”
 了解とだけ返信し、携帯をポケットにしまった。土曜日の午後一時ということもあり、渋谷は騒がしかった。
 私は夏織が来るのをカフェで待つ事にした。てきとうに調べて入った店は、屋根裏部屋をモ チーフにしたカフェらしく雰囲気がすごく良かった。古風な雑貨や絵本が薄暗い店内の中で 白熱電球たちに静かに照らされていた。店内にはすでにほとんどの席がうまっており、見る限り女性やカップルがほとんどの割合を占めていた。奥の席へ通されてからコーヒーを注文 し、夏織にお店の名前を伝えた。
 十五分もしないうちに夏織が友達を連れてやってきた。
「遅れてごめんー。授業長引いちゃって…。あ、そうだ。紹介するね。今日友達になった柚 珠です。」
 夏織がそう言うと、薄暗い店内の中夏織の後ろに隠れていた柚珠と紹介された彼女がひょっこり顔を出した。その時、私は前にバスで見かけた女性を思い出した。二人が同一人物かど うかは分からなかったが、立ち振る舞いや体型がそっくりだった。彼女はとても綺麗だった。
 柚珠は軽く会釈すると、手持ちのノートに
“はじめまして。川谷柚珠と言います。よろしくお願いします。”
 と書いてまた小さく会釈した。驚いて不思議そうにただそれを見つめる私に夏織がすかさず口をはさんだ。
「柚珠はね、耳が悪いの。聴こえないの。生まれつき。だからこう、ノートでやりとりするの。」
そう言った後、ノートと夏織自身と柚珠を一回ずつ指さしてジェスチャーで私に伝えた。それから、ほらー、何してんの、と私に柚珠の持っていたペンとノートを私に渡してきた。私はされるがままノートに、
“はじめまして。清水旭です。よろしくお願いします。”
と書いて向かいの席に座っている二人の丁度真ん中くらいに置いた。

 それから約一時間程三人でノートでやりとりした。
 会話量は必然的に少なくなってしまうが、一つ一つ文字と相手の表情、そしてジェスチャー をきちんと確認しながら進んでゆくやりとりはなぜか普段している会話よりも上質なものに 感じられた。普段なにげなくやっている事を再確認したようなそんな気がした。それと同時に、『言葉』の偉大さに気づいた気もした。また、柚珠のことをまだそんなに多く聞いた訳でもないのに柚珠の丁寧で心優しい性格が文字から伝わってきた。文字にはそんな、人格を 表す力があることも分かった。現に夏織の文字をまじまじ見たのは初めてだったが彼女の文 字は筆圧が強く綺麗に整っており、自信が表れていた。
 店内の照明が優しくぼわっとしたオレンジ色で包まれているためか、時間がゆっくりすぎて いるような感覚に陥っていて、まだ一時間半くらいしか居ないのに何時間も居たような気がしていた。

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