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『ホテル ibasho』もりまりこ

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 永嗣がこっちにゆっくりやってくる。
「お久しぶりです。あれって?」永嗣が指差したのはバスケのリングだった。
「あれですか? ここは元体育館ですからね。夜になるとスローインで決めた人はワンショットグラスがフリーで飲めますよ」
「ここは? どういう」
「ここはホテルです。で一応わたしが支配人やってます」
 わたしは源治さんいつの間にって思って途方に暮れそうになってたら、ハルコさんの名を源治さんが呼んだ。
 さっきはどうもって挨拶を済ませると、どこかでシャワーを浴びたみたいにすっきりした顔とふつうのブラウスとスカート姿だった。
「ねぇハルコさん。ここはホテルですよね」と源治さんがやわらかい笑みを浮かべて答えを待ってる。
「ほら。見たでしょさっきのibashoっていう看板。あれが答えなの。ようは元素周期表と同じってこと」
 先生、わかりませんって顔をふたりでする。
「あなたたち付き合って長いの? 面白いわね。驚いた時の眼がいっしょよ。簡単な話なのよ。元素周期表ってさ、部屋番号の1は水素で2はヘリウムでとか、12号室はマグネシウムとか決まってるじゃない。あれって彼らの居場所だなって思ったら、みてるだけで落ち着いてきてね。いつかもっと年とった時にね、ああいう居心地のいい場所が欲しいと思ったの」
 へぇ~っていう相槌を打った時、永嗣とはもった。またからかわれると思ったら源治さんがどんとおいしそうなジュースをカウンターに置いてくれた。
「どうぞ召し上がれ」
「これって」
「スムージーよ」ハルコさんがすかさず答えてくれる。「この中の野菜もね、柴ちゃん。柴崎太郎さん。ほら頭茶色に染めたおじさん。あの人が校庭を菜園にして育ててくれてるのよ」
 ハルコさんは柴崎さんっていう初老の人の側に駆け寄ると。その人は、帽子を脱いでこっちに会釈してくれた。
「亜梨子さん。亜梨子さんもよくあの父親と住んでいた小さかった頃居場所がないって言ってたでしょ。正直、じいはあまりあなたのことを理解してあげられなかった。時々あの父親にいじめられているのかもしれないと思いつつも助けてあげられなくて。ほんとうにじいは、だめなだめな叔父でした」
 そういう話は卒業したからって言おうと思ったら、一口飲んだスムージーがどんなカフェで飲んだものよりもすっきりとおいしくて、涙がでそうになった。
「めっちゃうまいです」永嗣がフォローしてくれる。「えっと、柴崎さんありがとうめっちゃうまいっす」って柴崎のいる方向へと大声で挨拶する。柴崎さんは照れながら帽子を脱いで恥ずかしそうに会釈した。
「いつかはね。じいも老人ホームかなって思ったら気分がどんよりしてきましてね。散歩してたら、ハルコさんとぶつかってしまったんですよ。2度ほど。
 わざとじゃないですよ。そしたら、気が合いましてね。気が合っていろんな話をしてたら、さっき言ってた元素周期の話をハルコさんがしてくれたんですよ。
 それって、なにも難しい話じゃないねってことになって。つまり居場所ですねって結論に辿りついたら、そういう場所をつくりましょうってことになって。いろいろと市に掛け合ったりしながら、ここまで漕ぎつけました。まだ開発過程ですからね。まだ完成形じゃないんですよ。この元体育館以外は。

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