「今、狐につままれた顔しとったで」
「永嗣もそうだって。で、源治さんのこと早く聞かなきゃここまで来た意味がなくなるでしょ。永嗣、聞いてみて。わたしこわいし、事実を知るの」
「何言ってんねん。亜梨ちゃんの叔父さんやんか」
とか言ってるうちにハルコさんはランニングパンツにランニングタイツのいで立ちでふたりの前に現れた。
え? え? ふたりはハルコさんの姿をみて驚く。
「なに、ごちゃごちゃいってんの? 走るわよ今から。付いて来て。オバランなのよあたし。おばあさんランナーなのよ。市民マラソンが好きで」
とか言いつつハルコさんはシューズのひもをしめると、ドアにがちゃっと、カギかけてその場ランニングしつつほんとうに走り出した。
「あなたたちも、さあ」
ふたりで知らない街を走り抜けた。ハルコさんのストライドはかなり広く、市民ランナーの枠を超えて、ちょっとセミプロっぽかった。
永嗣の脚なんかほんとうに千鳥足のほうがよっぽどましってぐらいへなへなだった。どこまで走るん? ハルコさ~ん。っていうか源治さんのこと早く聞いてよねとかって言ってるうちに、辿り着いた先。そこはかつての学校みたいに見えた。
ここここ此処よってうれしそうに指さしてる。
古い校舎だった名残りがあるけれど、その建物はあたらしい中層のビルのようなたたずまいで。かつて体育館だったらしい入り口のところに看板がかかってた。
<ホテル ibasho>
入り口は回転ドアになっていてそこををくぐると、にぎやかな声がしてきた。
にぎやかな声の先にとても聞きなれた声が被る。
「亜梨子さん亜梨子さん。やっときましたね」
声がする方向を見ると源治さんだった。永嗣がわたしの背中を押す。
「どうして? ここにいるの?」
「どうして来ないんですか。ちゃんとノートに書いてあったでしょ。サプライズゲームの方法が」
「サプライズゲームって? だって黙っていなくなったらどうすればいいかわからないでしょ。あのノート遺書かなんかだと思ったの」
「ひえー。遺書ですか。生々しいこと言って。死ぬときはちゃんと亜梨子さんの眼をみてちゃんと言いますよ。それはともかく。ここちょっとふしぎでしょ。楽しくて帰れなくなりました。ごめんなさい」
源治さんって、思えば寝食を忘れるタイプの人だった。いつだったか一日中ゴールドクレストっていう観葉植物の針金みたいな葉を描き続けていたこともあったし、ある時なんかよく知らないけれどモノポリー大会に出るって海外に行ったリしたこともあって、欲望というベクトルに忠実な人であったことを今更ながら思い出してわたしは苦笑する。
あれは、永嗣さん? って視線を放ちながら今ふたりにとびきり美味しいの出してあげるって、なにかをミキサーで作り始めた。源治さんはバーのカウンターみたいなところの後ろ側にいる。バーテンダーのような白い上っ張りを来てなぜかネームプレートは小学校の名札のようだった。さぎさわげんじ。ってひらがなで。
「そうだよ。突然源治さん家出したって、びっくりしてノート読んでもらったの」