『化かされて』
斉藤高谷
(『にわか入道(埼玉県)』)
35歳の夢見るバンドマン〈俺〉がバイトを終えて帰宅すると、恋人のヨーコが真剣な面持ちで待っていた。またいつもの話かと思う〈俺〉に、ヨーコは子供ができたことを告げる。
『蘇る昔話の神』
霧水三幸
(『長者ヶ森(山口県)』)
主人公は己の人生と環境に不満がある。会社の夏季休暇に自分を連れ出した横柄な彼も不満の一つだ。だが、現状を変える勇気がない。だが長者ヶ森の昔話に出てくる神が宿った事で、邪魔者を躊躇なく消してしまう残忍な性格に変貌してしまった。昔話は本当の話だった。
『三十五日目の山参り』
十野響
(『三十五日目の山参り(兵庫県淡路島)』)
淡路島に伝わる昔話三十五目の山参りをを現代の人がどう捉え行っているのかを描きました。
『道祖神』
太田純平
(『傘地蔵』)
高校の文化祭で手芸部が模擬店を出していた。そこで僕はニット帽を購入するが、帰り道に寒そうにしている道祖神を見つけて思わずニット帽を被せてやる。するとそこへ僕の好きな女の子が通り掛かったので隠れて様子を窺っていると、彼女は道祖神を見てこう叫んだ。「あーっ! これ私が作った帽子!」
『いきものたちの恩返し』
白波瀬海渡
(『貝の恩返し(佐賀県)』)
名主には生き物の命をいつも気にかける優しい娘がいた。日照りが続き困るなか、ある男が現れ田を水で満たしてくれる。男はその見返りに娘を要求するが、名主が断ると大蛇に化け娘を連れ去ろうとする。すると生き物たちが立ち上がる。無数の貝が大蛇を倒し、森の生き物達が残りの枯れた田を水で満たす。
『俺だって、強い。』
真銅ひろし
(『桃太郎(岡山)』)
ある日、柿次郎が剣術の稽古をしている最中に一人の男子が現れた。名前は桃太郎。「稽古をつけて欲しい」と言う桃太郎はその言葉とは裏腹にめちゃくちゃ強かった。そして年月が経ち桃太郎は鬼退治に、そして柿次郎は村を守る事になった。鬼は来ないと思われていたが、しかしその日は突然訪れた。
『名に恥じぬ人生。』
松ケ迫美貴
(『寿限無』)
これは、日本一長い名前を付けられた男の遺書である。男にとってその名前は両親から受けた深い愛情の証でもあり、そして男の人生を縛る呪いでもあった。幼い頃、名前のせいで溺死しかけた話から、死を決意するまでの半生を、男は淡々と綴っていく。